第20話 ぐちゃぐちゃにされるぞんび
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
ゾンビがダッシュでこっちに向かってくる。急いでドアを閉めようとしたけど、体当たりされてぼくは転んでしまった。
太っちょのゾンビじゃない。お父さんの新しいカラダには絶対なれないやせた女の人のゾンビがぼくに向かってとびかかってきた。
──動けない。転んじゃったから。立ち上がって、にげないと。
ぼくは、ぼくもみんなと同じようにゾンビになっちゃう。
「どけ! このガキ!!」
ぼくは首のうしろを引っ張られると、ぐいっとモノみたいに投げられた。
かたいコンクリートの床に体がぶつかり、肩とか背中とか全部が痛い。でも、ぼくはずっと突然出てきたその人から目をはなせなかった。
「死ね! コラぁ!!!」
背の高い男の人だ。太っちょではないけど、体がデカい。筋肉だるまみたいだった。
男の人は手に持っている大きなスコップで女の人のゾンビとたたかっていた。
べちゃ。ごちゅ。ずちゃ。ごき。
いろんな音がする。スコップがゾンビに当たるたびに、女の人の手や顔がぐちゃぐちゃにつぶれていく。
男の人はずっと、「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!」と怒鳴っていた。
「いい加減死ね! このクソアマ!!!!」
スコップがゾンビの頭を割った。パッカーンって昔、動画で見たスイカ割りみたいなきれいな感じじゃない。やっぱりぐちゃってつぶれた感じで女の人の頭が割れて、後ろ向きにたおれていく。
頭から血をふきだしたゾンビはドアによりかかったまま動かなくなった。ドアは、静かに音を立てて閉まっていく。
首がななめに変な感じに曲がっている。つぶれた手がぴくぴくとけいれん? みたいに動いている。
「……死んだの?」
男の人にぼくは聞いた。顔が血まみれになった男の人はこっちを向いて、めんどくさそうに舌打ちをする。
「あぁ? 見ればわかるだろ!? しゃべんな!」
「死んだんだ。ぼく知ってる。女の人のゾンビの目、死んだ金魚みたいな目になってる。ぼく、飼ってたんだ昔。でも、お母さんとお父さんにエサあげるのダメって言われて、それで、だんだん泳げなくなっていって、そして、水槽のなかでぷかぷか浮いてたんだ、ぼく──」
「俺は、黙ってろって言ってんだ!!」
「っえ……んっ、んっ……」
苦しい。なんで? なんでお父さんみたいに服をつかむの?
「苦しいか?」
「んっ……」
ぼくはコクコクって首をふることしかできない。でも、わかってる。このあとぼくはぶたれるんだ。なにもしてないよ? ぼく、なにもしてないのに。
「わかったら口を閉じとけ」
急に苦しくなくなる。男の人はなぜかぼくから手を離すと、胸のポケットからタバコを出して口に入れた。
「……じろじろ見てんじゃねぇーよ。悪かったな。……ちょっと落ち着かせてくれ」
そう言って男の人は、持っていたライターでタバコに火をつけた。深呼吸するみたいに大きく息を吸って、白い煙を吐き出す。
「見てんじゃねーって。そうだ、お前、店の中からタオル持ってきてくれないか? 見回ってきたが、今はゾンビはいない。俺はここにいるから」
「……う、うん」
なんでなぐらないのかわからない。悪いことをしたのに、おしおきされないの?
「おい、早く行けって。お前、まさか言葉わからないわけじゃないよな?」
「! ごごご、ごめんなさい……」
『俺の言葉がわかんねぇーのか!!』──お父さんはそうやっていつも怒ってた。だから、タオルを持ってこないと、やっぱりなぐられちゃうかもしれない。
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