第19話 ぼくのともだちのぞんび

 なんで走ってしまったんだろう。そう思ったけど、もう遅い。


 ゾンビたちはぼくの足音に気がついて、「キシェエエエエエ!!!!」みたいなよくわからない声を出しておそいかかってきた。


 ぼくは、前ならぜったいにはしってはいけないって先生たちから怒られていた道路をわたり、スーパーまでの坂をかけあがっていく。


 足を止めちゃいけないんだ。どんなことがあっても。


 ぼくは知ってる。仲の良かったクラスメートがこの坂にいること。坂の上の道路をはさんだそのまた坂の上のマンションに住んでいる友達だった。


 空想のなかでゾンビにおそわれて学校にとじこめられたぼくが、家族の話を最初にするともだちだった。


 そのともだちはぼくの「じじょう」をなんとなく感じていて、「そうだったんだ」って話をきいてくれるんだ。そしていっしょに外に出るためにゾンビとたたかう。先生や他のクラスメートがゾンビになっていくなかでも、最後まであきらめずにいっしょにずっといっしょにたたかうんだ。


 ──でも、その友達が今、ぼくを食べようと両手を前に突き出して坂をかけおりてきていた。


 ぼくは目をつぶってダッシュでスーパーの中に入っていった。


「……う……」


 スーパーに入ってすぐの階段横のガチャガチャコーナーにしゃがんでかくれる。1秒、2秒、3秒……ゾンビは、追ってきてない。


 ぼくは立ち上がると、洗濯機がいっぱいあるクリーニング店の奥のトイレを見た。──前はあの先に、太っちょのゾンビがいた。新しいお父さんのカラダ。


 どうしよう……まずはカッターを取ってきた方がいいのかな? トイレを開けても、もしすぐにおそってきたらたたかえるブキがない。


 でも、あのゾンビはもうトイレにいないかもしれない。いくら脳みそがスポンジみたいになったバカなゾンビでも、トイレにたべものなんてないんだからスーパーのなかに戻っていくかも。


 だって、スーパーの中はくさった食べ物のにおいで気持ち悪くなりそうなくらいくさかった。


 そう、たぶん、トイレよりくさい。


 ……ちょっとだけ、見てみよう。いるかどうか。


 ドアをちょっと開けて戻ればきっとだいじょうぶ。もし、見つかっても前みたいに走って逃げればいいんだ。


 よし、行こう。


 ぼくは足音を立てないようにゆっくりゆっくりとトイレに向かって歩いていった。トイレのドアがどんどん大きくなっていく。……ゾンビの声が聞こえる。中にはゾンビがいる、けど。


 ドアは押すだけで開くドアだ。ぼくはドアの取っ手をつかむと、右耳をドアに当てた。やっぱりゾンビの声が聞こえる。だけど、このゾンビが太っちょのゾンビかたしかめなくちゃ。


 お父さんの新しいカラダがあるかどうかたしかめなくちゃ。


 そっとドアを開ける。すきまから中の様子をのぞき込むと。


「何やってんだ、お前!!」


「えっ!!!!」


 後ろから声が聞こえて、ゾンビのうなり声がした。

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