第15話 にげられないぼく
女の人のゾンビだ。肩くらいまでの茶色の髪の毛は、たぶんいっぱい血をあびて半分くらいが赤くなっていて、何日も洗ってないからボサボサだった。服もボロボロで血にまざって泥や土がついていて、やぶれた服の間からこげ茶色になった肌が見えていた。
でも、首につけていた白いネックレスだけは汚れていなくて太陽の光を反射してキラキラとキレイにかがやいていた。
そして、においがひどかった。お店のなかも、かびくさくてひどいけど、そういうのじゃなくて卵がくさったみたいなにおい。お父さんとお母さんも毎日同じにおいを出していたんだろうけど、一回外に出るとやっぱりにおいがひどく感じる。
ゾンビのネックレスがゆれる。お店のなかに入ろうとしているみたいだ。入口にならべてあるイスやつくえにじゃまされてなかなか前に進めていないけど、ゾンビの赤い目はそっちからは見えないはずのボクのことを見ている気がした。
気のせいかもしれない、でも気づいているかもしれない。
ゾンビが入ってきてもだいじょうぶ。何回もかくれているから逃げ方もわかっている。
ゾンビが近くまできたらコック人形の後ろを回ってどんな家で使うのかわからないけど、大きなつくえに上って走って逃げればいい。お店を出ればすぐとなりには草や木がいっぱい生えている細い道に入る。そうすればゾンビはもうボクのことを見つけられない。
こういうのが息をひそめて、と言うのかもしれない。息をころしてかもしれない。とにかくボクはゾンビが近くまで来るまで動かないようにして待った。お店のなかにある人形たちの一部に自分もなったように。
ゾンビはイライラしているようだった。障害物となる物に当たるたびに、「ウルゥグウァアアア」とおたけびのような声を発して上半身をゆらした。肉のことしか見えていないんだと思う。
人間の知能がのこっているなら体を横にしたりねじったりしながら、それか物を移動させたりしながら1分もかからず来れるのに。
でも、やっぱりゾンビはボクがここにいることがわかっているみたいだった。赤い目はずっとコック人形をにらみつけている。そろそろボクもにげないといけない。
そう思ったときだった。入口の光にもう一体黒い影があらわれた。今度は短く刈り上げた男の人のゾンビだった。
思わず足が止まってしまう。入口がふさがれてしまった。今、にげても入口にいるゾンビにつかまってしまう。
どうする──どうしよう──。
がぁあああ、とゾンビが大声を上げた。口が開き、くらやみのなかでも真っ赤な口の奥が見える。ゾンビの口から出たつばが顔にかかった。
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