第12話 ぼくはそとへでる

 そんなことを考えながら、ボクは青いスニーカーをはいて玄関のカギを開けた。またドアのすきまから外のようすを見る。さっきもいたゾンビが坂道を上ったりおりたりをくりかえしている。


 そのすがたをよく見ると、まだ若いゾンビだった。緑のシマシマの長いシャツにゆるゆるのジーンズをはいている。今ならあのゾンビを捕まえることができるかもしれない。周りには他にゾンビはいなそうだし、家から近くですぐに連れてくることができる。


 でも、ダメだ。お父さんの体型とはぜんぜん違う。お父さんは太めだけどあのゾンビはやせている。お父さんの形をしていない。


 どこに行こう──そう思ったボクが思い出したのはスーパーでおそってきたゾンビのすがただった。あのときは逃げるのにせいいっぱいだったけど、トイレから出るときにちらっと少しだけ見えた感じは太めの体格だった。


 でも、どうしよう。スーパーは遠い。それにゾンビがたくさんいるし、トイレのゾンビに首輪をつけれても戻ってくるまで大変だ。


 ゾンビはきっとあばれ回る。口はガムテープでふさげば、だいじょうぶかもしれないけど、お父さんみたいな大きな体があばれたらきっとすぐにおさえることはできなくなっちゃう。


 ……カッターだ。こわれたカッターのかわりがあれば体を痛めつければ言うことを聞くかもしれない。お母さんもお父さんも、カッターでおしおきすればおとなしくなったんだから、きっとどんなゾンビでも痛みをあたえれば言うことを聞くはず。


 よし、行こうスーパーに。カッターも、スーパーならまだたくさんおいてあるはず。向かってる途中にお父さんの体があればそのゾンビをつかまえてもいいし。


 ゾンビに気づかれないように少しずつドアを開けていく。ボクの体が通るくらい開いたところで足音を立てないように外へと出てまたゆっくりとドアを閉めた。カギをかけるとガチャリと音がするし、すぐにゾンビから見つからないところに逃げないと危ない。


 ボクは、ゾンビの顔が反対の方向へ向いているときに急いで雑草だらけの庭をぬけると、2、3歩くらいの短いじゃり道を横切りその先にある灰色のゴミ置き場の後ろに隠れた。


 ゴミ置き場にはもうゴミは捨てられていない。だから、金アミからゴミ置き場の向こうのようすがよくわかる。


 見えるところにゾンビはいない。家の前の坂道を歩いていたゾンビが走ってくるような足音も聞こえない。いつもどおり見つかっていない。ここまでは安全だ。

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