第10話 くびわとてぶくろ

 だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ……。


 音は聞こえたかもしれないけど、ボクの家はわかりっこない。ゾンビは通りすぎていくだけ。通りすぎていくだけ……。


 しばらく待っても、あの一回以上ゾンビの声は聞こえなかった。かかえたままのきゃたつを床において、ボクは玄関のトビラに左耳を当てた。


 ……だいじょうぶ、なにも聞こえない。聞こえるのは、ドクドクとうるさいボクのしんぞうの音だけ。


 後ろを振り向いてきゃたつを手に持つ。そのときに、床に転がっている物を見て、ボクはひらめいた。


 落ちていたのは首輪だ。たぶん、きゃたつを取り出したひょうしに物置のどこからか落ちてきたのだと思うけど。


 きゃたつをもう一度床に戻して、首輪を手に取った。赤い皮の部分がはがれたボロボロの首輪。今はあまり使われなくなっていたけど、昔、ボクがおしおきとして悪いことをしたときに首につけられていたものだ。


 おねしょをしたときなんか、首輪をはめられて一日中トイレに閉じこめられていた。


 トイレから逃げられないように黒くて長いヒモを外からカギをかけられたトイレの取っ手に取りつけられて、ちょっとでも動けば首がしまるようになっていた。泣いてもわめいてもお父さんもお母さんも助けてくれなかった。家には誰もいなかったから。


 物置の中には首輪の他にヒモもあるはずだ。首輪とヒモがあればゾンビを捕まえられるかもしれない。


 暗い物置の中を探す。いらないものはなんでもお母さんがつめこんでいたから、ごちゃごちゃしている。


 ボクはかたっぱしから引き出しを開けたり、おくに置かれた物を手探りで探したりしながらヒモを探した。あんなにいらないと思っていたものが、今は必要だなんて人生なにがあるかわからない。


 中身を全部出した手前の引き出しを床に移動させると、おくにもう一つ引き出しがあった。大事そうなものが入っているような木でできた4段の引き出しだ。


 1番上は使わなくなったようなハンコや文ぼう具、2番目には封筒や手紙、3番目には何も入っていなかった。4番目の引き出しを開けると、そこにはほこりがいっぱいついたヒモがあった。まるでかくしているみたいに。


 ヒモの他には、何か小さな木箱が入っていた。手にとって開けてみると中に入っていたのは、なにか虫みたいに小さくてカサカサとしたこげ茶色の物。その変な物が白い布の上に置かれていた。


 なんだろう。わからない。どこかで見たような気がするけど……。


 とにかくボクは箱を元の場所に戻して引き出しを閉めた。首輪とヒモがあればゾンビの首にかけて家まで引っ張ってくることができる。


 あとは身を守るものがあったら。ゾンビに首輪をつけれてもかまれてしまったら終わり。せっかく3人で過ごす時間も終わってしまう。


 キッチンに戻ってきゃたつに乗って届かなかった1番上のたなを開けた。中にあるのはキッチンで使うそうじグッズだった。ごむ手袋にごみ袋、使えそうなものがいくつかストックしてある。


 お父さんもお母さんもゾンビになったときに、最初にここを開けていればよかったかもしれない。ブカブカだけど、手袋をつければかまれてもだいじょうぶだと思う。

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