第9話 ぼくはものおきからきゃたつをとる
「ドアをしめろ!」といつもなら怒鳴られるかもしれない。
怒鳴り声よりもうなり声の方がよっぽど楽だ。
それにもしものときのためにすぐ逃げられるよう、ドアは開けておいた方がいいと2週間の生活でわかってきた。
食べ物を取りにスーパーに行ったときに、どうしてもトイレが我慢できなくてトイレに入った。
ドアを閉めて便器に座っていたら、外から急に足音とゾンビのうなり声が聞こえてきた。すぐにいなくなってくれればいいのに、ゾンビは入ってきたトイレの入口もわからないのか、壁に体をぶつけながらトイレの個室の前を行ったりきたりしていた。
スーパーのトイレはコインランドリーや銀行のATMがあるせまい一本道の奥にある。逃げるためには、ゾンビにかまれないように走っていくしかない。
ボクは入口から一番近い個室にいた。だから、ゾンビが一番奥の個室の前に移動した瞬間にバーンとドアを開けて逃げ出した。2、3秒くらい経ったあとにゾンビは大きな声を上げながらすぐに走って追いかけてきたけど、ボクは買い物カートのすきまにかくれてなんとか助かることができた。
ぜったいに安全だという場所以外は、ドアは開けておいた方がいい。ゾンビが近づいてきているのもすぐにわかるし、それにやっぱりすぐに逃げることができる。
家の中で一番危険なのは、外に音が聞こえるかもしれない玄関。なのに靴箱のとなりにある物置は、トビラを開けるときにギギギっと大きな音がする。
ボクは玄関のカギを音が出ないようにゆっくり回すと、片目だけ出せるくらいに本当にちょっとだけ開けてすきまから外のようすを見た。
玄関から10メートルくらい進めば大きな道路がある。でも、ボクの家はちょうど坂道の下にあって、しかも歩道にはガードレールがおかれているから、ゾンビがこっちをのぞいたりしていないかぎりは気づかれることはない。
今もゾンビが目的もなく家の前の坂を上っていくところだった。赤い目はぜんぜんこっちを見ていなくて、ボクの存在に気づいていない。
今なら大丈夫だ。トビラを閉めてまたゆっくりカギをかけると、ボクはなるべく音を立てないように物置を横に開いた。それでもこすれるようなイヤな音が出てしまう。
くらい物置の中にあったきゃたつはすぐに見つかった。中に入ってきゃたつを両手でかかえて持つ。でも、上のたなに引っかかって上手く取れない。
ボクはきゃたつを思いきり引っ張った。お父さんなら簡単に取れたかもしれないけど、力のないボクは物置からきゃたつを取り出すだけでも大変だ。
リビングからお母さんの声が聞こえてきた。あまり音は立てたくない。だけど、きゃたつは必要だ。後ろに体重をかけて力を込めて引っ張ると、大きな音を立ててきゃたつが抜けた。
遠く、外の方からゾンビの怒ったような声が聞こえた気がして、ボクは息を止めた。
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