第3話 なかよくみんなでしょくじ

「いいか、これはお前がわるいんだ」


 チキチキチキチキ。


 カッターの刃のところを出したり入れたりする。


 チキチキチキチキ。


「いたいのは知ってる。だからやるんだ。いたくないとおしおきにならないだろ」


 カッターの刃を鳴らしながらボクが近づくと、お母さんは急に食べるのをやめてオリを乱暴にたたき始めた。出してくれって言ってるみたい。


 でも、やっぱりお父さんは動かない。


「だいじょうぶだよ、お母さんはささないよ、今はね。お母さんはボクと一緒にご飯を食べてくれるから。……でも、お父さんはダメだ」


 ソファをのりこえてオリの後ろに回ってお父さんの顔にカッターの刃を近づける。


 いつもはビビった顔をするくせに今はこっちを見ようともしない。


「おいっ! こっち見ろよ! なにムシしてんだ! ああっ!? おい!」


 きたないヨダレをたらしつづける。目はボクじゃなくてちがうところを見てるみたいだ。


「くそっお前、バカにしやがって! もういい、死ねよ!!」


 オリのスキマからお父さんの顔にカッターをさした。


 ブシュっとこげ茶色のほっぺの肉がつぶれる音がして、刃のさきがおくに入っていく。


「いたいか!」


 でも、いたそうな声は出ない。口から血のまじったヨダレがながれてくる。


「お前っ!」


 カッターを引き抜き、反対のほっぺをさす。それでも声が上がらないから、顔中さしまくった。


「なんだ!? いたくないのか? いたいだろ! いたいにきまってる! くそっ、どこまでもムシしやがって! こうなったら──」


 刃のさきを白くよごれた目に近づけた。


「目が見えなくなったらどうなる? あぁっ? いたいぞ~いたいぞ~めんたま取れたらいたいぞ~」


 それでも反応がない。ムシしてる。


 ムシするなとえらそうにどなってたお父さんがボクをムシしてる。


「お前! ムシするんじゃねぇよ!! うわぁああああ!!!」


 目をさした。顔とはちがって変なかたさがあったけど、力を入れると虫がつぶれた音みたいな音がして目の玉がつぶれた。


「……なんだこいつ」


 目からあふれてきたえきたいが鼻やほっぺにたれて顔の下に向かっていった。


 あいかわらず出つづけるヨダレや血とまじってきたならしいえきたいになる。


 お父さんはまったく動かなかった。


「ああ、死んだ」


 お父さんはもう死んだんだ。やくたたずの体になって死んだんだ。


 とつぜん、お母さんがうなり声を出した。


「うるさいっ!」


 お父さんの目からぬき取ったカッターを思い切りお母さんの背中にさした。ひめいみたいな声が出ていっきにおとなしくなる。


「そうだよね。食事中はうるさくしちゃダメなんだもんね。わかったら、ちゃんとぜんぶ食べて。死んだお父さんの分もね」


 背中からカッターをぬこうとしたら、根もとからポキッと折れてしまった。


「あーダメだ。また取ってこないと」


 とりあえず朝ご飯を食べよう。


 お母さんもお父さんもずっといそがしくて、みんなで一緒にご飯食べるのはいつだったかおぼえていないくらい久しぶりだった。

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