第2話 おしおき
最初にずっと食べたかったウインナーを口の中に放り込む。プリプリとした食感が口の中に弾けて焼いてなくてもおいしい。
遠足のときとかに友だちが食べてるのを見て、笑顔になっていたのを思い出す。
きれいな笑顔の友だちだったけど、あの友だちも、生きてるのかな? それともお父さんとお母さんみたいになっているのかな。
ひどい臭いのするくさった生肉でも喜んで食べるゾンビみたいに。
テレビの代わりにゾンビになったお母さんとお父さんの様子を見る。
電源がつかなくなる前に見ていた動画でいつも見ていたインフルエンサーが真面目な顔して言ってたっけ。
本当にゾンビが現れたって。
ゲームや映画で見るようなゾンビで、人を襲ってその肉を食べるって。信じられないくらいの力で襲いかかってくるから簡単には逃げられなくて、噛まれた人は生きのびてもいつかゾンビになっちゃう。
ボクは真剣に見てたのに、突然画面が消されて疲れた顔のお父さんが言ったんだ。
「バカみたいな動画ばっかり見てないでちゃんと家事をやれ」って。
ムカついたけど、顔に出したらなぐられる。
すぐにキッチンに行って食器を洗ってたらお父さんはソファに座り込んで缶ビールを飲んでテレビを見ていた。
なにもおもしろくない野球の試合だった気がする。
でも、そんなこと言ってたお父さんが一番最初に感染したんだ。
3本目のウインナーをかみながら、お父さんの方を見た。
お母さんは何回も指でつっついたことで崩れてオリの中に散らばった豚肉を動物みたいに手づかみで口に入れている。すごい勢いよくつめ込んだもんだから口から肉が出ているのに、かまわず肉を食べようとしてる。
わからないけどたぶん、食欲のコントロールがきかないんじゃないかな?
脳がこわれているから。
でも、お父さんはさっきからぜんぜん動いていない。
ゾンビになったら脳がこわれちゃうはずで、目の前に食べものがあったらむちゅうになって食べつづけるのに。
「お父さん、ちゃんと食べないとだめでしょ。もったいないんだからどんなご飯でも食べないと」
声をかけてもお父さんは動かない。
ヨダレをたらして横になったままだ。死んでるみたいに。
「くさった肉でもちゃんと食べなよ? 食べないとおしおきだからね」
おしおきと言われても動かない。本当に死んじゃった?
「なんだ? せっかくオレが作ってやったのに食べれないってのか? そうやってオレをバカにしてるのか!」
そう言ってたよね。ボクがくさった卵を食べられなかったとき。
「……わかった。じゃあ、おしおきだ。言ってもわからないんだから、おしおきが必要だな」
シリアルを食べようと持っていたスプーンをお父さんみたいにつくえに叩きつけると、僕はイスをとびおりた。
つくえの端に置いた文房具入れに入ったカッターを手に持ってオリに向かう。
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