ゾンビとボクの供食の日々
フクロウ
第1話 たのしいあさごはん
今日の朝ご飯はちょっとぜいたくだ。
家から歩いて20分くらいかかるスーパーからとってきたシリアルとずっと食べてみたかった一番高いウインナー、それにみかんとスナックとグミ。
昨日の夜ご飯の袋といれものを、パンパンにふくらんだもえるごみの袋に入れて、きれいになった机の上に朝ご飯を並べる。
「よし、いただき──あ、そうだ」
ウインナーは袋から食べればいいけど、シリアルはお皿に入れて牛乳と混ぜなければいけない。お皿は──食器だなの中には10枚入りの紙皿の袋だけしかのこっていなかった。
「マジか……」
スーパーに行ったときは必死で食べ物のことしか考えてなかったから、お皿がもうなくなってることに気がつかなかった。新しいお皿は近くてもたぶんコンビニにしか置いてない。
イスからジャンプして閉めたカーテンをちょっとだけ開けた。まぶしい光が電気がつかない暗い部屋の中に入ってくる。
今はまだ朝だけど、絶対に外になんて出たくない。昨日、車の後ろにかくれながらなんとかやっとスーパーから帰ってきたんだ。
うなるような声が窓の外から聞こえて、ボクは急いでカーテンを閉めた。
「ちょっと嫌だけど……」
テーブルの下に置いたきいろいもえるごみの袋から、昨日使った紙皿を見つける。マヨネーズとあげ物のカスが付いている。気持ち悪いけどしょうがない。
ボクはテーブルにその紙皿を置いた。シリアルをマヨネーズが見えなくなるくらい入れて、牛乳をシリアルの上からかけていく。
こうなる前から朝ご飯はいつもこれだった。
夜ご飯はあったりなかったりだったけど、朝ご飯だけは机の上にこれと白いお皿が置いてあって口の中にかきこんで学校へ行く。
飽きるほど食べて明日は違うご飯が食べたいと思っているのに、不思議と朝になるといっつもこの味が食べたくなる。
牛乳を入れ終わると、薄いきいろのプラスチックのスプーンとウインナーと残りのデザートをもう一回レストランみたいに並べた。
部屋の中から低いうなり声がする。
全く、ボクのご飯が用意できたらいつもこれなんだから。
「わかってるよ。頭がくさりすぎて、もう待つこともできないんだね」
そう言いながら、カウンターキッチンを通り抜けて4段の冷蔵庫の真ん中のひきだしを開けると、卵がくさったようなにおいがムワッと鼻の中に広がった。
くさった豚肉だ。元々冷凍室だったけど、電気が切れてすぐにくさってしまった。
くさった生肉。でも、これが大好物なんだ。今のお母さんとお父さんには。
豚肉をよくわからない茶色のえきたいがついたまな板にのせた。すぐにコバエが集まってきて豚肉のまわりを飛び回る。包丁を持ってコバエもろとも豚肉にふり下ろせば、2人分の食事は完成だ。
2つに分かれた豚肉から血みたいなエキスが落ちてくる。
床にポタポタたれちゃうけど気にしない。
「ふけ!」とどなる声はもう聞こえない。
聞こえてくるのはバカみたいにくさった肉を待っているうなり声だけ。
部屋のおく、テレビとソファの間に置かれたオリからお母さんが充血した赤い目で僕の方を見た。
オリのさくを両手でにぎってはげしく動かしている。後ろにいるお父さんはまだ眠っているのか、ヨダレをたらしたまま鼻をヒクヒクさせている。
「ほら、今日のエサだよ」
ソファに立ってオリの前で肉をぶらぶらさせると、お母さんはヨダレをまきちらしながら、うでを伸ばした。
揺れてる肉を目で追うんだ。
「食べたいの〜? ほら〜こっちだよ~ほら〜もっとこっちだよ~」
なかなかあげないでいると、ガマンできなくなってくるのかお母さんはオリを揺らし始めた。瞳は大きくなって、犬みたいに歯をむき出しにする。よだれもあわみたいにだらだら流れている。
「はい、どうぞ!」
そこまで待ってオリの上に肉を投げると、オリのスキマからゆびを伸ばして落ちてくるエキスをいっしょうけんめいすおうとする。
それがおかしくて面白くて。
「ちゃんとのこさず食べるんだよ。じゃないとまたおしおきだからね」
エキスがついた手をお父さんのワイシャツでふいて、やっとボスは朝ご飯が食べられる。
「いただきます」
小学校では、先生がご飯の前にしっかりと手を合わせて食べることが大事なんですよって言っていた。
命への感謝の気持ちを表す人としての大切な儀式なんだって。
そんなこともできなくなった今のお母さんとお父さんは、やっぱりもう人間じゃなくなっちゃったのかな。
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