第4話

 授業が終わると、昼食を食べに食堂へ向かった。

 お腹はあまり空いていなかったが、さすがに何も食べないわけにはいかない。

 いつもなら研究室で食べるが、これまた桜井さんが来る恐れがあるから食堂へ行く。


 食堂のおばさんからたぬきうどんを買い席に着いた。

 食べようと箸を手にすると、ピコンとスマホから通知音が鳴った。

 そこには今一番見たくない人の名前だった。


”桜井さん”


 見たくないはずなのにメールを開いてしまう。


「友樹どこにいるんだ?」


 いつもいるはずの場所にいるから探しているんだろう。

 そうだ、桜井さんは昨日俺が見ていたことを知らないんだ。

 苦しんでいるのは俺だけなんだ。


 なんて返信するべきなのかわからず文字だけを見つめる。

 すると、


「小野先生」


 と声がした。


 はっとして上を見ると学生であろう人が立っていた。

 一瞬でも桜井さんだと思ってしまった自分が嫌になる。


「さっきの小野先生の授業を受けてました、小笠原です。」


 何百人もいる生徒の名前は基本覚えられていないが、確かに出席確認のときに小笠原という名前を呼んだ覚えがある。


「ご飯、ご一緒してもいいですか」


「え、」


 断る暇もなく、小笠原という男は俺の前に腰をかけた。


「さっきの小野先生の授業でわからないところがありまして、、、っていうのは嘘で、なんだか悲しそうな顔をしていたからどうしたのかなと思って」


 俺はいつもと同じように授業をしていたのだ。悲しい顔なんてしていない、今もさっきも。


「特にいつもと変わらないけど」


「小野先生の授業は去年から受けています。そして毎回休まずに九十分間真面目に聞いています。いつもと変わらないなんて言い訳通用しません」


「もし、いつもと違うからってお前には関係ないだろ」


 そうだ。授業を受けているからといって、こんな生徒一人に俺のことなんて関係ない。


「関係あります」


 なんなんだこの男は。俺となんて初めて話したくせに。俺のことをなんでも見透かしているようでなんだか腹が立つ。


「嫌なことがあるなら俺に話してください。」


 と、小笠原は席を外すとともに、一枚の紙をテーブルに置いた。


”心理学部三年 小笠原俊 090‐××××‐〇〇〇〇”


 と書いてあった。


「なんなんだよ」


 と誰にも聞こえない声で呟いた。




 


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