第3話
それから俺はどうやって帰ってきたのかわからない。
けれど、あのホテルのピンクの看板と、桜井さんの背中、隣に歩いていた男の顔は頭から離れられなかった。
ベッドに横になると、どっと疲れが出てきた。
先ほど見た光景が現実なのに夢であってほしい。
先ほど見た光景が見間違えであってほしい。
なんて、あるわけないことを考えてしまう。
桜井さんは告白をしてくれた時から俺を「好きだ」と言ってくれていた。
その言葉に俺は安心し過ぎてしまったのかもしれない。
「なんでなんだよ」
目からボロボロと涙が溢れでた。
目が覚めると、鏡を見なくても自分の目が腫れていることがわかった。
目が覚めた瞬間に昨日の夜のことを全部思い出してしまう。
大学に行けば桜井さんがいる。
いつもなら嬉しいことだが今日は違う。
仕事に行かなければいいのだけど、こんなプライベートなことで仕事を休むわけにはいかない。
と思いつつも準備する気力が湧かない。
はぁ、とため息をつき顔を洗いに洗面所に向かう。
鏡を見てみると案の定目が腫れ上がっていて、二重の目が一重になっていた。
冷たい水を目に浴びせると気持ちよかった。
昨日の夜から何も食べておらずお腹は空いているはずなのに、体全体が重くそんな気持ちさえ出なかった。
朝食も食べずにスーツに袖を通し、
「桜井さんに会いませんように」
と心で願いつつ大学へ向かった。
いつもなら、研究室に寄ってから講義の教室へ行くが、もしかしたら研究室に桜井さんが来るかもしれないという不安から、まっすぐ教室へ向かった。
教室に入ると自分の講義を受けるであろう生徒が数人いた。
今から俺は仕事だ、と言い聞かせて教壇へ立った。
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