第2話

 一緒のお墓に入ってくれるか的なアイノコトバをささやかれたのは、これで2回目だ。


 1回目は忘れもしない、ラスダンを攻略しおえた直後のこと。


 一言一句たがわぬ言葉を、ラビュリーからぶつけられたんだ。


 そんときの俺は、ラスダンからの大パノラマを撮影しようとしていたから、思わずスマホを落っことしそうになった。


 それどころか、感じたことないほどの動悸を覚えたくらいだ。


 生まれてはじめて告白を受けたから?


 あるいは、童貞だから?


 断じて違うね。


 もっとこう、身の毛がよだつような邪悪なものを感じずにはいられなかったんだ。


 目の前にいる女の子は魔王で、世界の5割をやろうって言われるんじゃないか、と思わずにはね。


 だから俺は首を縦に振らなかった。


 そしたらどうなったと思う?


 俺は、攻略したはずのダンジョンに閉じ込められた。


 この際ハッキリ言おう、俺は監禁されたんだ。


 ラビュリーと出会ったあのダンジョンに。


 ほかでもない、このラビュリーに。


「監禁だなんてひどいなあ。いっしょにいたいだけなのに」


 なんて、当の本人は笑っている。


 その笑みはクリスタルみたいに純粋で、子どもみたいに無邪気だ。


 これで、俺を捕まえてこなけりゃなあ……。


「逃げる海人が悪いんだよ?」


「追いかけられたら逃げるに決まってんだろ」


「今度はそっちが追いかける?」


 と言ってラビュリーが走りさっていく。過剰なまでにお尻を揺らしながら。


 もちろん、追いかけない。なにが『じゃあ』なのかわからんし。


 ほどなく、サラブレッドのような足音を響かせ、ラビュリーが帰ってきた。


「なんで追いかけてくれないの!?」


「逆になんで追いかけてもらえるって思ったの?」


「男は揺れるお尻が大好物なんでしょ」


 俺は答えにきゅうする。俺は違うよ? でも、世のなかにはお尻が大好きってやつもいるだろうし……。


「海人はどこが好きなんですか」


「やっぱりおっぱい――」


 あ、ヤバ。


 ごく自然に聞かれたものだから、思わず答えちまった。でもこれってセクハラだよな。


 あたりに警察官がいなくて安心した。


 同時にラビュリーがプルプル震えているのが気にかかった。


 握られた彼女のこぶしは刀となり、俺のムスコを一刀両断するんじゃないかと思うと、こっちまで震えてきた。


 が。


 ラビュリーはたゆるんと胸を腕で支え、


「なあんだ。だったら、こんな苦しいかっこしないのに」


 次の瞬間には、ラビュリーのからだが光に包まれている。


 イヤな予感がし、俺はくるりと背をむける。


 まぶしいからじゃない。コイツが発光したら何かが起こる。この場合は――。


「あれ、あっち向いてる。おーい、海人。せっかく脱いだのになあ」


 やっぱりかあ。そりゃ、全裸になろうとするよなあ。


「……服着ろ。風邪ひくぞ」


「ヒトじゃないので風邪ひきませーん」


「公然わいせつ罪で逮捕されるぞ」


「ヒトじゃないので法のさばきをうけませーんだっ」


 コイツ……。


 振り返って頭の一つでもひっぱたきたい衝動にかられたが、そんなことをすれば、ラビュリーのあられもない姿を脳に焼きつける羽目になる。


 俺の脳の容量はもっと大切な人のためにあるんだ。


 それに、コイツ相手に隙なんて与えたら、ネットリ絡みつかれるに決まってる。


「わたしは隙だらけなのに」


「ウマいこと言ってんじゃないよっ!」


 てへへと頭をかくラビュリーはかわいい。


 黙ってれば、かわいいのに。


 もっと言うなら、監禁さえしてこなければ。


 そりゃあ男としてはスキスキダイスキアイシテルって言われるのは嬉しいさ。


 監禁したい! っておまけがなければな。第一、監禁ってなんだよって話だ。


 何がラビュリーをそこまで突き動かすのやら。


 もじもじしてるであろうラビュリーをそこはかとなく想像しながら、あたりの様子もうかがってみる。


 バカみたいにでかいダンジョンの腕から逃れるようにこの路地裏に入ったが、どうやら行き止まりのようだ。


「どうやって逃げようか考えてない?」


 なんでわかったし。


 ラビュリーがコロコロ笑う。


「黙ったときは、何か考えてる時だもんねー」


「うっせ。監禁してくるやつから逃げなきゃならんからな」


「だ、だれっ!? 海人にそんなことするやつは絶対許しませんからっ!」


「お前だよ!!!」


 ああもう我慢ならん……!


 俺は、全裸を見る覚悟を固める。


 コイツは一度、ガチ目にしかる必要がある。じゃなきゃ、俺はまた監禁されちまう。


 振り返ろうとした矢先、スマホが高らかに鳴りひびいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る