第8話 バイトの内容

……つ、疲れた。


いや、泣き言を言ってる場合か。


気合いを入れ直し、厨房とホールを行き来する。


「前菜とスープ出してくれ」


「はい、わかりました」


「和馬君、それが終わったら飲み物もお願いね」


「やっておきます」


二人の要望に応えて、作業を進めていく。

席の案内からお冷出し、そしてオーダーを受けて食事を提供するのが俺の仕事だ。

今日のバイトは俺一人なので、中々に忙しい。

かといって落ち着いた雰囲気が売りでもあるので、決してガチャガチャしてはいけない。


「お客様、お待たせしました。こちら、カボチャのポタージュです」


「ありがとう。あの、おススメとかありますか? お肉料理とかで」


「そうですね……本日ですと、鹿肉のローストなどがございます。臭みも取っているので、食べやすいかと」


俺は事前に叔父さんから言われていた内容を答える。

以前はテンパっていたけど、これくらいならできるようになった。


「それじゃ、それをお願い」


「かしこまりました」


伝票に記載し、叔父さんに渡す。

それを終えたらコーヒーや紅茶を出し、空いた皿などを下げていく。

さらに隙間時間に皿洗いやコップ洗いなどもし、あっという間に時間が経過する。


「和馬、これでラストオーダーだ」


「わ、わかりました」


「和馬君、頑張って」


「はい……!」


叔父さんは作りっぱなしなのに、全然余裕の様子。

香里奈さんもレジとオーダー、調理の手伝いとデザートとやってるのに。

疲れているのは一番若い俺だけ……情けない。

その後どうにか乗り越え、店内の真ん中辺りにある椅子に座る。


「はいよ、お疲れさん」


「じゃあ、私が飲み物を用意するから」


「んじゃ、俺はパスタ用意するか」


「あっ、飲み物くらいは俺が……」


「「座ってろ(なさい)」


二人に同時に言われ、大人しく座ることに。

確かに立ち上がろうとしたら、足がフラフラした。

その後手早く、十分程でパスタが出てくる。

俺のはナスとベーコンのアラビアータだ。


「おおっ……美味しそう。叔父さん、ありがとう」


「ったく、お前はこれが好きだよな。大体、いつも同じがいいとか」


「まあ、思い出の味だしね」


これは俺が幼い頃、叔父さんの家に預けられた時に食べていた。

初めて食べた時、その絶妙な辛さと甘みにはまり、それ以来叔父さんにせがんだっけ。

おふくろの味は知らないけど、叔父さんの味なら知っている。


「はい、紅茶ね」


「香里奈さん、ありがとうございます」


「んじゃ、食べるとするか……お疲れさん」


「「お疲れ様」」


三人で乾杯をし、遅い食事を始める。

21時に店を閉め、終わったらこうして一緒にご飯を食べるのが定番だ。

休憩がないので、これが賄いという扱いでもあった。


「うん、相変わらず美味しい。この辛味と油で揚げたナスのトロトロ食感がたまらないよね」


「そいつは良かった。しかし、俺は料理を教えようと思ったんだが……まさか、ケーキの方に行っちまうとは」


「ふふ、可愛い甥っ子を盗っちゃってごめんなさい」


「全くだぜ。まあ、お前が選んだなら良いけどな」


そう、叔父さんは俺に料理を仕込むつもりだった。

うちは父子家庭だし、俺は基本的に一人飯だから。

しかし俺の興味は、香里奈さんが作るケーキなどのスイーツへといった。

無論、父さんには内緒である……そんなのは男の仕事ではないという偏見があるので。


「明後日の放課後、うちに来て練習する?」


「はい、お願いします。ですが、折角の休みなのにいいんですか?」


「いいのよ、私も気晴らしになるし」


この店は水曜と木曜日が定休日で、俺はたまにケーキ作りを教えてもらうために通っていた。

その代わりに家の掃除をしたり、買い出しなどを手伝ったり。

本当に、ありがたい話である。


「でも、叔父さんだって……」


「おう、気にすんな。お前が香里奈の相手してくれたら、俺はパチンコや雀荘に行けるしな」


「もう、貴方ってば」


「ははっ、怖い顔すんなって」


この二人には子供がいなく、俺を可愛がってくれる。


でも、それに甘えてばかりもいられない。


早い所覚えて、自立していかないと。


それで……早く家を出て行きたい。

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男前な柊さんが俺の前でだけ乙女 おとら @MINOKUN

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