第6話 お礼の品
早く寝たからか、次の日はいつもより早めに目が覚めた。
ただ既に父さんはいなく、サクラが伸びをして出迎えてくれる。
「ニャーオ」
「おはよう、サクラ。すぐご飯を用意するからな」
「アーン」
少し撫で声を出してご機嫌である。
俺が早く起きたから、早めにご飯にありつけると思ったのだろう。
中々に現金な子だこと……可愛いけどね。
「さてさて、俺もきちんと朝飯を食べないと」
サクラのご飯を用意したら、今度は自分の番である。
今回は時間があるので豪勢にいくつもりだ。
と言っても、料理が得意なわけじゃないから適当だけど。
「卵焼きとウインナー、あとはパンとシリアルでいいか」
フライパンを用意し、調理を始める。
得意ではないとはいえ、こちとら幼い頃から鍵っ子である。
これくらいの調理なら、問題なくこなせるのだ。
……味の保証はないけどね。
「流石に、この辺りなら失敗の心配はいらないけど」
ほとんど一人で過ごしているからか、俺は独り言が多い。
かといって、誰かと過ごすのは難しい。
俺なんかと過ごしてもとか、相手に気を遣わせるのが苦手だから。
「我ながら、何という後ろ向きな考え……よし、こんなもんかな」
焼いたパンとシリアルも用意し、テーブルに着く。
そして時間をかけてゆっくりと食べ進める。
食べ終わったら着替えをして、いつものように自転車を走らせた。
「よしよし、今日はゆっくり行っても余裕で間に合うぞ」
そのまま走り続け……川沿いの道の前で、見覚えのある女の子を見つけた。
その子は俺を見つけるなり、昨日と同じように通せんぼをしてくる。
そして、少し上目遣いで睨みつけてきた、
「ふぅ、やっときた」
「……柊さん? どうしたの?」
そう、そこにいたのは柊さんだった。
派手めの化粧、絶妙に着崩した制服、手足の長いスタイル。
いつものように非の打ち所がない。
「どうしたのって、昨日言ってたお礼よ」
「あぁー、そういえば……」
「忘れてたとか……まあ、いいけど。とりあえず、これあげる」
そう言い、俺に風呂敷に包まれた何かを突き出してくる。
俺はどうしていいかわからず、その場に立ち尽くす。
何故なら、それが何かくらいはわかってるつもりだった。
「……」
「ちょっと、手が痺れるんだけど?」
「へっ? あ、あぁ……俺に?」
「そうに決まってるじゃん」
ひとまず受け取り、それをカゴに入れる。
その際に形状を確かめ、それが何かを確信した。
「……お弁当だよね?」
「うん、そう……だ、だめ?」
「い、いや、ダメってことはないけど……」
こちとら、父子家庭だ。
お弁当なんか作って貰った記憶がない。
それも女の子になんて……どう反応したらいいんだろ。
「ほっ、なら良かった。うち、あんまりお金使えないし」
「えっ?」
「あっ……今のは忘れて! それじゃあ!」
「ちょっ!?」
制止も虚しく、ピューっと走り去ってしまう。
色々と驚きすぎて、追いかけることもできない。
「なんでお弁当? そもそも、どうやって返すの? ……って、考える場合じゃない。せっかく早く出たのに、またギリギリになってしまう」
その後、チャイムがなる五分前くらいに教室に入る。
柊さんはいつものように友達と談笑し、俺と目も合うこともない。
なるほど、約束は守ってくれるみたいだ。
席に着いた俺は、とりあえずあそこで待っていた理由を理解する。
「人目につかないようにってことか」
お弁当なんて食べてたら目立つと一瞬思ったが……すぐに霧散する。
そもそもいつもぼっちだし、俺のことなど誰も気にしないだろう。
そう思った俺は、いつものように授業が始まるまで机に伏せるのだった。
◇
昼休みを迎えた俺は、屋上前の通路に向かう。
そこで地べたに座って、お弁当を広げる。
二段になっており、下には海苔弁、上には色とりどりのおかずが入っていた。
「おおっ……唐揚げに、肉団子まである」
ポテトサラダやミニトマト、厚焼き卵や煮物なんかもある。
何というか、庶民的なお弁当って感じだ。
「……こういってはなんだけど意外かも」
もっとギャルらしいというか、派手なお弁当を想像してた。
まあ、ギャルらしいお弁当ってなんだって話だけど。
「いやいや、だからこういう偏見は良くないって……ただ、あまりにギャップがある」
ひとまず、唐揚げから食べてみる。
熱くないけど、しっかりとサクサクした食感がいい。
中の味も美味しく、海苔弁をかきこむ。
「にんにく醤油かな? まあ、誰とも話さないしいいか」
厚焼き卵を口に入れると、丁度いい甘さだ。
焦げてもいないし、ふわふわの状態を維持している。
ポテトサラダも手作りなのか、ジャガイモがゴロゴロしてて良い。
「……美味しい」
気がつけば夢中で食べて、あっという間に食べ終わってしまう。
正直言って、食事はインスタントとか適当で良いと思っていた。
ただこうして久々に手の込んだ手料理を食べると、やっぱり違うのだなと実感する。
「香里奈さんや亮司叔父さんの手料理を食べたのは、もう三年前以上だもんな」
昨日は緊急だったから焼きそばを持ってきてくれたけど、最近は家によることもない。
それこそ、小学生高学年までは夕飯をご馳走になっていたっけ。
あっちは気にしないけど、俺が気にするようになってしまった。
「……でも、良いもんだなぁ」
逆に、柊さんにお礼を言いたいくらいだ。
ただ同時に、これが一回きりのお礼だと気づき……少し残念に思ってしまうのだった。
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