第3話 柊さんはカッコいい
幸い、そんなに目立つことはなかった。
どうやら柊さんの男前な性格と、保健委員だったのが良かったみたい。
ただ、俺が腹ペコで倒れたという恥ずかしい事実に変わりはない。
羞恥心に耐えつつ、どうにか残りの授業をこなしていく。
そして、放課後のホームルームが終わる。
「少し早めに終わったか。すまんが、チャイムがなるまでは教室を出るなよー。それと、橘は少し残ってくれ」
「は、はい」
その時、斜め前に座る柊さんと目が合う。
「………」
「………?」
なんだろ? 睨まれてる?
しばらくすると、コクリと頷き前を向いた。
一体なんだったんだろうか?
そんな中周りをみると、目立つ生徒達は席を立って談笑を交わしていた。
「まあ、立つなとは言われてないか」
そのまま待つこと数分、チャイムが鳴る。
扉の前では、まだ男子達がふざけあっていた。
ああいうの、俺達とかは通り辛いから困るんだよなぁ。
すると、柊さんがスタスタと前のドアに向かって行く。
「ねえ、邪魔なんだけど? そこにいられると出にくい」
「わ、悪い」
「こえーこえー」
「はい? 何か言った?」
「「いえ」」
柊さんがひと睨みすると、男子達が直立して道を開けた。
そして、スタスタと教室から出て行く。
その後を、待ってましたというように何人かが通り過ぎる。
「か、カッコいい……」
すると、今度は後ろの入り口から声がする。
何故か、先ほど出て行った柊さんがいた。
「ねえ、退いてくれない?」
「へっ? う、うん、ごめんごめん」
「あれ? 彩花、帰らなかった?」
「ちょっと忘れ物しちゃって」
その間に、また何人かの生徒が後ろのドアから出て行く。
柊さんはロッカーを開けて何か確認をし……再び後ろのドアから出て行った。
「……もしかして、あの子達が通りやすいように?」
クラスの目立つ人達が陣取っていると、俺達はどうしても気後れしてしまう。
声をかけるのも難しいし、帰れないから困る。
そんなことを考えていると、先生が俺の席にやってきた。
「さて橘、一度座ってくれ」
「あ、はい」
「お前ら、早く教室から出て行けー」
そのまま生徒達が帰るのを待ち、対面に荒木先生も座る。
「よし、全員帰ったな。時間をとって悪い。さて、体調はどうだ? 一人で帰れるか?」
「は、はい、大丈夫です」
「そうか……橘、お前は細いしもっと食え。そうしないと体力もたんぞ」
「はは……」
確かに俺は細いが、別に食ってないわけじゃない。
ただ、あまり太らない体質なだけだし。
と思ってみるも、口からは弱々しい言葉しか出なかった。
これから帰るので憂鬱だったから。
「まあ、無理はしないでいい。それと、親御さんには連絡したからな」
「……ですよね」
その言葉に、俺は思わず肩を落とす。
父さんの会社に電話が行ったということだ……やだなぁ。
帰ったら、何か言われるだろうか。
「それは仕方あるまい。しかし、生活は大丈夫か? あまり立ち入った話はしないのが、最近の教師の方針なんだが……」
そう言い、少しバツが悪そうな表情を浮かべた。
荒木先生は若いからか、割と生徒達との距離が近い。
なので、俺のことも心配なのだろう。
担任なので、うちが父子家庭なのは知っているし。
「はい、別に虐待とかはないですから。確かに、ほとんど会話もしないですけど」
「そうか……まあ、父と二人きりというのは複雑よな。わかった、それならいい。とりあえず、ちゃんと飯を食え」
「はい、わかりました」
「では、気をつけて帰りなさい」
「荒木先生、ありがとうございました」
挨拶をし、教室を出て行く。
そのまま下駄箱に行き、グラウンドで部活をしている人達を眺めつつ自転車置場に向かう。
すると、ひと気の無い中、夕日に照らされた金髪の女の子がいた。
「……柊さん?」
「あっ、ようやく来たし。それと、鍵は開けといたから」
「鍵を開けたなら帰っても……もしかして、俺を待ってた?」
「そうに決まってるじゃん。私、お礼を言わずに帰るほど礼儀知らずじゃないんだけど?」
そう言い、少しふくれっ面を浮かべた。
この表情はいつもとは違い、とても子供っぽい。
「いやいや、やっぱりお礼なんていらないよ」
「だめ、私の気が済まないし」
「いや、だから……朝も似たような会話したよね」
「ふふ、そういうこと。私、頑固だから折れないわよ?」
「……はい、今度こそ諦めました」
「ならよし。ほら、こっちの道から帰ろ」
そう言い、上機嫌に歩いて行く。
俺は慌てて自転車を押しながら、その後をついて行くのだった。
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