解放の刻
日記に刻まれた文字によると、隠し部屋は玄関の中央真下にあるらしい。隠し部屋への鍵は日記と一緒に保管されていた半透明のものだ。仕掛けに必要そうなものをペンダントの紐に通し、情報を頼りに階段を降りる。
歩く音が洋館全体に反響するのは依然として変わらず、本当に隠し部屋への入口があるのかと考えるが、ここまでの経緯を考えると嘘ではないことは明らかだ。依然として、歩く音が洋館に響き渡る。
コツコツコツコツ、トントントントン、コツコツ、トントン――
何度か玄関中央から入口を往復していると、足音の音質が異なる場所が存在する。音質が変わる境界が何処あるか、つま先で床を叩きながら探していく。
「ここだわ」
床に灯りを降ろし、床の材質を調べる。床の材質は変わらず、見た目だけでは分からない。床の厚さが周りと違うのだろうと判断する。
境界があった床には、頂点として結ぶと八角形になる銀色の装飾が施されていた。床全体には同様の装飾が何ヶ所もあり、装飾自体は目立たない。だが、翼、本、杖が織り成すお洒落な銀の紋様が彼女を魅了する。
紋様に触れ、装飾を親指でゆっくりとずらす。禁断の果実を食べるような背徳感に襲われ、鼓動が速くなっていくのを感じる。ペンダントを首から外し、石の鍵を手に移すと、持っている手が再び疼き、真紅色に染まっていく。昂る気持ちを抑えきれず、小さな暗闇に差し込み一気に手を返し、後退る。
床に広がる魔法陣。光り輝く紋様。動き出す床に巻き上がる風。消える炎。
全てが計算されているかのように美しく絡み合う。重低音が響き渡り終わったとき、次々と炎が揺らめき、地下へと続く階段を照らしていく。
「蝋燭は必要なさそうね」
蝋燭が消えたことは杞憂であった。仕掛けに対しての抵抗は無くなったのだろうか、自然と受け入れられるものになっていた。それよりも、冒険しているような感覚による高揚感を抑えることはできないことに疑問を抱く。重い責任から逃れようと目を背け、この状況を純粋に楽しんでいるだろうか。いわゆる開き直りだ。そんなこと考えながら、階段を降り始める。
八角形の螺旋階段の壁には炎が照らされており、通路が暖かく安心できる空間だった。しかし、同じ景色が永遠に続くのかと思うほど底までは長く感じられる。
「ここに眠っているのね」
螺旋階段の奥底には人が数百人ほど入れる空間が八角形状に広がっていた。中央には大きな半透明の石があり、冷たい雰囲気が漂っている。八角形柱を切り出したかのように精密な石の上には、特別な儀式がこれから行われるかの
螺旋階段の灯りが静寂な空間を包み込み、ほんのりと暖かい。不思議と寂しさを感じることはなかった。耳を澄ませば、炎が揺らめく音さえ聞こえてくる。
棺に花束を供えたいくらい立派な石段に近づき、中央の様子を改めて確認しにいくも、墓標は立っておらず、棺に人が眠っているのかすら判断できない。全てが嘘で白骨化した遺体が棺から出てくるのでは、と一瞬だけ考えたが、冗談としては壮大すぎる。死後にすることでもない。
古びた洋館の最深部で棺に手をかざす。
次第に不穏な空気が漂い始め、静かな暗闇に淡く紅い
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Crimson:Oath E/V 福宮さとみ @hukumiya_satomi
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