日記
書斎の入口を眺めた後、箱に触れていた指先をゆっくりと離す。これまでの状況を整理するために、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
気持ちが落ち着くと手に痛みを感じ始めた。手のひらの傷は深くはないが、手を血の色に染めるのには十分であった。念の為、血が止まっているかを確認する。強く手を握っていたため、手は乾いていた。
書斎の遺品整理は後にし、書斎の入口へと足を向け、移し替えた蝋燭とを手元に持つ。机の上に置かれたナイフとして使ったの栞も念の為に持っていくことにした。
登ってきた階段をまで戻り、
「この隙間かしら」
階段の中央の段差には宝箱を開ける仕組みと同じ隠し収納が存在したのだ。収納の幅は肩幅程度であり、そこまで大きな収納でない。蓋を開けやすくするために、一段上の階段が少し高くなっていた。
鍵は書斎の箱と連動しており、既に開けられる状態になっているようだった。軽く段差の埃を手で払う音が響き、書斎が閉鎖的な空間であったことを改めて認識する。この洋館で何があったのか、思考を巡らせながら、蓋を上へと持ち上げる。
「これが記録」
収納の中に入っていたのは変哲もないただの数冊の日記と半透明の石で精巧に造られた大きめの鍵であった。日記は古びている感じはなく、カバーは革製で重厚感あるものであった。中身を確認していく。
「何が記録よ。何も書かれていないじゃない」
どのページも白紙であり、鍵だけが手元に残る。ここまで来て何も分からないのは癪に障る。諦めかけ、残された石の鍵を手に持ち、眺めていると、掌が疼き始める。血が鍵に吸われるような感覚に陥った彼女は鍵を手から急いで離す。
「もしかて……」
日記を再度取り出し、血が乾いた手を白紙に押し付ける。すると、紙が滲み始め、文字が浮かび上がる。やはり、血が仕掛けに関係がある。しかし、全てのページを血で染める訳にはいかない。
日記を観察すると、表紙に今度は八角形の半透明の石が付いた。形は違えど、書斎で見つけた仕掛けと同じに違いないと考える。
「これなら」
銀の栞を用いて、再び傷口を少し
完成された日記のページをペラべラと
彼女は日記に魅了され、じっくりと日記を読むことにした。日記の要点を押さえながら読み進める内に、父が彼女に託した使命の詳細と過去の歴史について知らされていく。
「こんなことが――」
彼女は自分の使命を果たすことが、良いことなのか悪いことなのか判断することが難しかった。だが、
「やるしかないわ」
そう言葉を残し、静かに日記を閉じるのであった。
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