書斎
書斎への入口の鍵がからくりによって開かれ、緊張した空気が立ち込める。恐る恐る扉に触れるもびくともしなかった。
蝋燭の受け皿を足元に置き、手前へと力強よく引いてみる。扉は全くもって動かず、押し扉であることを理解する。重厚な扉に全体重を掛け、ゆっくりと書斎の中へと押し込む。
ようやく扉が開き、書斎の中が見えた。蝋燭を手元に戻し、中を覗いてみる。玄関の豪華な内装と比べ、質素な雰囲気があり、よくある書斎であった。
部屋に窓は無く、壁には書棚が置かれている。書棚の本は乱雑に並べられ、書斎で何かあったのかと思うほどであった。
「こんなにも厳重な部屋なのに……」
床に散らばった本を避けながら、壁際にある机へと足を進める。木製の机の上には大きく背の高い蝋燭だけが立っている。机には底の深い引き出しがあったので、そっと引き出しを開ける。
引き出しには、机に移そうにもない幅ぴったりの箱がしまわれていた。箱の上部には鍵穴らしきものがある。
「鍵穴と移せない箱なんて、何の役に立つのかしら」
からくり仕掛けの書斎に
葛藤の末、机周りを灯りで照らしながら確認する。すると、机には半球の形をした突起が一箇所だけ付けられていた。半球に灯りをしっかりと当て、じっくりと観察する。
「血を捧げ」
半球に小さく記された文字を再度確認するも、間違えはないみたいだ。血を捧げという文字に動揺する。そして、何が起こるか分からないという不安な気持ちが心を支配する。
机に設置されているからくりならば、きっと箱を開けることに繋がっている、そう確信した彼女は部屋に刃物がないかを確かめる。
床に散らばってる本や書棚をひとつひとつ確認していく。散らばっている本は拾い上げ、机の上に置いていく。蝋燭と同じくらいの高さで本の山が三つほどできた。
「これも遺品整理の一環だわ」
刃物を探すのと同時に本を整理することになっていたが、一冊だけ栞が挟まれてる本があった。栞を本から抜き取る。栞はナイフのような形をしていた。
「これなら」
机に戻り、蝋燭の火を移し替え、気持ちを落ち着かせる。少し冷めた蝋燭を外し、受け皿を自分の正面に置く。
栞を片手に、もう片方の手のひらを切る。ここに迷いは無かった。恐怖が度を通り越し、いつの間にか好奇心へと移り変わっていたのだ。
痛みを少し感じながらも、手を強く握り受け皿に血を絞り落としていく。何も考えず、ゆっくりと指先に血を付ける。
そして、机の側方の裏にある小さな半球へ指先を伸ばし、血を付着させる。
「っ!?」
バチッ、と指先に少し電撃が走った。
少し強めの静電気が起きた後、机に光の線が走る。紅い光が書斎を包み込む。彼女の目に
「うっ、何が起きたの……」
赤みがかった閃光が弱まると、机の真ん中が四角く凹み、スライド式小さいな扉が机に現れる。突如現れた扉に驚きを隠せず、時が止まった。
完全に蝋燭の灯りだけになったことを機に我に返る。
緊張しながら、扉の取っ手を指先で掴み、そっと開ける。扉の中を確認してみると、底が浅い凹みの中に鍵だけが存在していた。
鍵を手に取り、じっくりと観察するも、普段の鍵との違いは無い。しかし、これが引き出しの中の箱に使用する鍵であることを理解する。
引き出しに手を伸ばし、箱へと鍵を差し込む。
カチッ、と音がすると同時に箱へ突如刻まれる文字。
「えっ、まだ続くの!? そこまでして守りたいものってなんなの」
驚き、怒り、好奇心、不安と4つの感情が心の中で複雑に渦を巻いている。この気持ちを早く鎮めたいと思い、箱に刻まれた文字をゆっくりと指先も使いながら、確認をしていく。
「階段に隠された我らが記録を辿れ」
そう記された文字を読みながら、書斎に訪れる前に転びそうになった階段を思い出す。
「あの階段にも仕掛けが――」
彼女は入口の方を眺め、整理されていない書斎を後にすることにした。
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