第六話 ギフトの存在

 ギフト適性診断の予約から三日後、翔太は最寄り駅のホームで電車を待っていた。

 朝の通勤ラッシュを避けるため、あえて午後一時からの予約を取っていためホームの客の姿はまばらで、辺りには静かな雰囲気が漂っている。


 三十分ほどの電車の旅。

 車窓から見える街並みは、高層ビルが立ち並ぶ都会の景色が広がっていた。


 それから目的地の駅で電車を降り、地図アプリを確認しながら十分ほど歩いていると、"ギフト適性診断センター"の建物が見えてきた。

  翔太は緊張した面持ちでその建物を見上げる。

 近代的なガラス張りの外観は、どこか病院のような雰囲気を漂わせていた。


「佐伯様、お待ちしておりました」


 建物に入って受付で名前を告げると、白衣を着た相談員の女性が丁寧に出迎えてくれた。

 案内された診察室は落ち着いた色調でまとめられており、リラックスできる雰囲気になっている。

 壁には"ギフト"に関する解説パネルなどが掲げられていた。


 そんな中で、相談員は資料を広げながら、説明を始めた。


「まずは、基本的なお話からさせていただきます。ギフトとは、一部の人間が持つ特殊な能力です。その発現率は全人口の約5%と言われています」


 パネルには様々なギフトの分類が示されていた。

 戦闘系、支援系、探索系など、まるでゲームのような分類だ。

 しかし、これは紛れもない現実なのだと翔太は改めて実感する。


「ギフトの発現は、年齢や性別に関係なく、誰にでも可能性があります」


 相談員は穏やかな口調で説明を続けた。


「発現したギフトの性質は、その人の適性や経験と深く関わっているとされています。例えば、論理的思考に長けた方は分析系のギフトが、身体能力の高い方は戦闘系のギフトが目覚めやすい傾向にあります。……何か質問などはございますか?」

「いえ、大丈夫です」

「分かりました。それでは、診断室へご案内いたします」


 そうして相談員に導かれた先の部屋には、高度な医療機器のような装置が設置されていた。

 中央には透明なカプセルのような装置。

 その周りを、複数のモニターが取り囲んでいる。


「こちらが最新鋭のギフトスキャナーになります」


 説明を受けながら、翔太は診断着に着替えるよう指示された。

 着替えを済ませ診断室に戻り、カプセルの中に横たわると、独特の緊張感が全身を包み込む。


「それでは、診断を開始いたします」


 相談員の声が、スピーカーを通して聞こえてくる。

 すると、カプセル内部が淡い光に包まれ始めた。


「まず、基礎的なスキャンから行います。リラックスしていただければと」


 光の強さが徐々に増していく。

 それに伴い、翔太の体の内側から、不思議な感覚が湧き上がってきた。

 まるで、長い間眠っていた何かが、少しずつ目を覚ますような。


「あら……」


 モニターを見つめる相談員の声に、驚きの色が混じる。

 モニターに映るデータの波形が、激しく揺れ始めていた。


「佐伯様、今、何か特別な感覚はありますか?」

「はい……なんというか、体の中で何かが温かくなっていくような」


 その瞬間、カプセル内の光が一際強く輝いた。

 翔太の視界が、一瞬だけ特殊な色彩で満たされる。

 周囲の物体が、まるでデータの集合体のように見えた気がした。


「これは……!」


 相談員の声が上ずる。

 診断室内のモニターが次々と反応を示し始めた。


 やがて光が収まると、翔太はゆっくりとカプセルから出るように促された。

 相談員の表情には、明らかな興奮の色が浮かんでいる。


「佐伯様、あなたには間違いなくギフトの素質があります。しかも、かなり特殊なタイプのものです」


 モニターには複雑なデータが表示されていた。

 相談員は熱心にそれを説明し始める。


「あなたのギフトは、"解析"に関係する能力のようです。物事の構造や仕組みを理解するのに役立つ能力の可能性が高いかと思われます」


 その言葉に、翔太は先ほどの視覚的な体験を思い出していた。

 まるで、世界全てがプログラムで構成されているかのように見えた。


「このタイプのギフトは、ダンジョン攻略においても非常に重要な役割を果たせます。罠の解析や、安全なルートの発見など――」


 相談員の説明は続いていたが、翔太の頭の中では別の考えが渦巻いていた。

 現実の存在するダンジョン。

 前世での様々な経験。

 そして、この解析のギフト。

 これだけのものがあれば、きっと面白いことができるはずだ。


「ただし」


 相談員は真剣な表情で付け加える。


「ギフトの活用には、適切な指導と訓練が必要です。できれば、経験豊富な配信者の下で基礎から学ばれることをお勧めします」

「分かりました、考えてみます」


 翔太は静かに頷いた。

 この世界のルールは守らなければならない。


 診断を終えて建物を出る頃には、日が傾き始めていた。

 翔太は歩みを速めながら、これからの展開に思いを巡らせる。


 そして帰宅後、翔太はダンストのアプリを開いた。

 画面には様々な配信者たちの活躍する姿が映し出されている。

 ダンジョンの中で、それぞれが個性的なギフトを駆使しながら冒険を続けていた。


(次は、自分が画面の向こう側に立つ番だ)


 翔太は、密かに決意を固めていた。

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