第七話 ダンジョン見学
ギフト適性診断を受けた翌日の昼頃。
翔太はスマートフォンで、ダンジョンの情報が載っているサイトを閲覧して回っていた。
現在は、"ダンジョンナビ"という人気攻略サイトを閲覧しているようだ。
そのサイトの【ダンジョンとは】という欄には、ダンジョンの基礎知識がまとめられていた。
二十年前。
世界各地で突如として、巨大な地下建造物への入り口が出現した。
その数、世界中で108基。
当初は謎の建造物として恐れられていたが、人類の飽くなきの探求心によってその性質はすぐに解明されていった。
建造物の内部には無数の階層が存在し、そこには魔物や罠が潜んでいる。
しかしそれと同時に、人類にとって有用な資源や技術の手がかりも眠っていた。
この発見により、ダンジョンの探索は人類の重要な活動の一つとなったのだ。
攻略サイトを読み進めると、ダンジョンの基本的な構造も説明されていた。
全てのダンジョンは地上から地下へと続く階層構造になっていて、深層に行くほど危険度が増し、階層によって環境や出現するモンスターが大きく異なるという。
また、ダンジョン内には魔力の流れというものが存在していて、その流れは目に見えないが適切な装置があれば測定できるらしい。
魔力の流れの濃度は深層になればなるほど濃くなり、それに比例してモンスターも強力になるそうだ。
そして最も不思議なダンジョンの特徴が、"再構築"と呼ばれる現象だ。
この現象の内容は、定期的にダンジョンの内部構造が変化し、道筋や部屋の配置が書き換わるというもの。
この変化のパターンを予測することは、探索において重要な課題とされていた。
それから、ダンジョン内部は大きく分けて三種類の区域で構成される。
【探索区域】:一般的な迷宮エリア。罠や謎が多く存在する。
【戦闘区域】:モンスターが集中して出現する危険地帯。
【安全区域】:休息や補給が可能な中継地点。
これらの区域が組み合わさり、ダンジョンの各階層が形成されるわけだ。
それからも翔太がサイトの閲覧を続けていると、"ダンジョン見学ツアー"というバナー広告を見つけた。
クリックすると、初心者向けのツアー案内が表示される。
モンスターとの接触はなく、基本的な構造と特徴を学べるという触れ込みだ。
案内には、第一階層の探索区域を巡る2時間のコースが示されていた。
「実際のダンジョンを見学できるのか……予約してみるか」
翔太は見学ツアーの申し込みフォームを開き、必要事項を入力していく。
さほど高額ではない料金設定に、少し安心していた。
「予約が完了しました。3日後、13時より開始となります」
予約完了のメッセージを見つめながら、翔太は深く息をついた。
先日のギフト診断で特殊な能力が判明したものの、まだその使い方も分からない。
まずは一般の見学者として、基本的なことから学ぼうと考えていた。
++++++
3日後、翔太は指定された集合場所に向かっていた。
場所は都市郊外にある"第三ダンジョン"。
比較的新しい施設で、初心者向けの整備が整っているという。
最寄り駅で電車を降り、地図アプリの案内に従って歩いていく。
すると、周囲の景色が徐々に変化していった。
オフィス街から住宅街へ、そして自然が広がる郊外へ。
やがて、遠くに直径200メートルほどの円形の建物が見えてきた。
地上からは管理施設として建てられた現代的な3階建ての建物しか見えないが、この下に広大な地下空間が広がっているらしい。
建物に入って集合場所に向かうと、既に数人の人々が待っていた。
大学生らしき若い女性二人組、写真撮影の準備をしている女性ライター、そして仕事帰りといった様子のスーツ姿の女性だ。
それから予定していた時刻になると、ガイドの女性が現れた。
30代半ばくらいの女性で、温和な笑顔を浮かべている。
「皆様、お待たせいたしました。私、藤宮と申します。本日のガイドを務めさせていただきます」
ガイドの女性がそう自己紹介をした後、参加者それぞれが簡単な自己紹介を行った。
大学生二人組は考古学を学んでいるとのこと。
女性ライターは雑誌の取材で、スーツの女性は会社の業務視察という目的だった。
当然、翔太も自己紹介を行ったわけだが、唯一の男性ということでそれとなく注目される。
「それでは、まずは基本的な説明をさせていただきます」
藤宮は手元のタブレットを操作しながら、丁寧に解説を始めた。
「このダンジョンは、20年前のあの夜に出現しました。世界で108基出現したダンジョンの一つで、日本では5番目の規模を誇ります」
エントランスホールの壁には、ダンジョン出現時の写真が飾られていた。
荒れ地だった場所に、一夜にして出現した巨大な地下入り口。
現在では管理施設だけが地上に姿を見せているが、その神秘的な入り口の形状は人々の関心を集めていたという。
「当初は軍事施設として管理されていましたが、10年前に一般利用が解禁されました。現在では、観光や研究、資源採掘など、様々な目的で活用されています」
そう話しながら、藤宮は壁に埋め込まれた装置を指さした。
「この装置は魔力濃度を計測するものです。数値が高いほど、モンスターの出現率が上がります」
装置には15という数値が表示されている。
これは比較的低い数値だと藤宮は説明した。
深層では100を超えることもあるという。
「それでは、実際に中へ入ってみましょう」
案内されるがままに先に進むと、そこには近代的な設備が整っていた。
セキュリティゲート、モニタリングルーム、医務室など、様々な設備が揃えられている。
「ここからが、実際のダンジョンエリアです」
セキュリティゲートを超えてさらに先に進み、最後の扉を超えると辺りの空気が一気に変わった。
扉の先の部屋の中央部には、現代の建築とは明らかに違うと分かる巨大な円形の入り口が設けられている。
入り口の周囲には古代文字のような模様が刻まれ、不思議な存在感を放っていた。
この入り口の先には、螺旋状の階段が続いている。
案内に従ってその階段を降りていくと、遂にダンジョンの通路が姿を現した。
人工的な照明は姿を消し、壁に埋め込まれた結晶が幻想的な光を放っている。
通路の床と壁には、不思議な文様が刻まれていた。
「こちらが第一階層の探索区域になります。探索区域の特徴は、この迷路のような構造です。本来は罠や仕掛けが存在しますが、この階層では既に無効化されています」
通路は不規則に曲がり、時折広い空間へと開けていく。
天井の高さは場所によって変化し、所々に謎めいた装置が設置されている。
カメラを構える女性ライターは熱心にシャッターを切り、大学生二人は互いにメモを見せ合いながら熱心に質問を投げかけていた。
スーツの女性は、施設の安全対策に特に関心があるようだった。
見学は続く。
安全区域では休憩所や補給所を見学し。
探索区域では、罠の種類や魔力の影響について詳しい説明を受けることができた。
「今回見学した範囲は、ダンジョンのごく一部です」
見学終了後、藤宮が締めくくるように言う。
「より深い階層には、より強力な魔力が満ちています。それに伴い、モンスターも強力になり、区域の変化も激しくなっていきます」
翔太は黙って頷く。
今日見たものは、この世界の不思議さを改めて実感させるものだった。
せっかくの機会だと考えた翔太は、解散前に最後の質問をすることにした。
「藤宮さん、ダンジョン配信者になるには、具体的に何が必要なんでしょうか」
藤宮は少し考えてから、丁寧に、そして最後は満面の笑みでこう答えた。
「まずは基礎訓練からですね。ダンジョンでの基本的な行動方法を学び、実地経験を積むことが大切です。……男性のダンジョン配信者の方なんて見たことありませんが、もし本気なら影ながら応援させていただきますね」
帰り道、翔太は今日の体験を整理していた。
突如として現れ、人類の生活を大きく変えたダンジョン。
その謎に満ちた存在に、これから自分も関わっていくことになる。
新しい世界への一歩を、確かに踏み出していた。
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