第7話 大団円

 そんな事実とは別に、八木刑事としては、ずっと、下瀬刑事の考え方というものを自分の中で感じていて、

「確かに見えていることが、不可解ではあるが、偶然という言葉で、すべてが成り立っているような気がする。その偶然というものを、偶然とわざとということでの2択だと考えると、まったく見えていないのだとすれば、逆に、すべてが見えていると考えることだってできるのだ。例えば、じゃんけんですべて負けたとすれば、自分が勝てる相手を出せば、逆にすべて勝利ということになるではないか」

 と思った。

 それがいわゆる、

「三すくみの関係」

 ということで、その三すくみというのは、今考えた理屈から、

「先に動いた方が負けだ」

 ということになるのであった。

 それを考えると、

「犯人の手のひらで転がされている」

 という、まるで、

「孫悟空と、お釈迦様の話」

 を彷彿させられる気がした。

 そして、さらに、

「百里の道は九十九里を半ばとす」

 ということわざにあるように、

「西遊記の話」

 というものと、三すくみの関係を何となく結びつけると、そこには、循環するものをかんじさせられるような気がするのであった。

 それこそが、まるで、

「自然の摂理」

 のようなものではないだろうか?

 そんな自然の摂理であるが、この犯罪は、

「結局、無理のある犯罪だった」

 ということである。

 腐乱死体となって発見された男は、実は殺されたわけではなく、たまたま、近くで死んでいた人間を生めることで、

「顔のない死体」

 を演出しようとした。

 だから、この時に発見されないと、身元が本当に判別できなくなる。少なくとも、発見された時の状況から、

「被害者が強盗犯である」

 ということを感じさせないといけないということになるには、その男の身元を、

「なるべく、分かるまでに時間が掛かるようにしておきたかった」

 しかし、あまり長いと今度は、

「遺産相続ということで、被害者が誰なのか?」

 ということをただ隠しただけでは、警察に怪しまれると考えたのであった。

 しかし、そこも結局考えすぎで、この男は、ある事件で冤罪になったことで、指紋であったり、顔写真が残っていたのだ。

 警察の復顔であったり、被害者のカバンから、指紋が出たのは、犯人の計画ミスだったのかも知れない。

 これも、銀行強盗がこの男の仕業であるということを見せつけるためには、どうしても、カバンと、中のお札が必要だった。ただ、犯人の考えとしては、

「そこに指紋が付いていないというのはおかしい」

 と感じたのであろう。

 確かに、最初は手袋をしていたかも知れないが、途中から一度も外さないというのも、おかしいと思ったのか、それも仕方がなかったのだ。

 しかも、それがバレたというのも、

「冤罪だった」

 などと誰が想像するだろう。

 それを考えると、

「実に皮肉なことだ」

 といえるだろう。

 そして、この男は、整形をしていた。それは、死体を発見した犯人にはすぐに分かったことだった。

 顔が、府連ケンシュタインのように、針の跡が生々しく残っていた。それは失敗だったわけで、

「急死」

 というのも、実は、それが原因だったのかも知れない。

 しかし、犯人にとって、そのことから、

「顔のない死体のトリック」

 を思いつくことになった。

「何としてでも、なるべく早く計画を実行したい。しかし慌ててしまって、計画が簡単に六呈することは避けなければいけない」

 それを考えると、

「犯人が、腐乱死体として死体を発見させたのは、整形の後を示すためだった」

 ということであろう。

 死体になってしまうと、整形の治癒の進行が停止するので、そのタイミングも分かりや叱っただろう。

 ただ、それも実際の腐乱状況までは簡単には分からない。

「犯罪には医療知識のある人でないと無理だ」

 ということも、犯行の暴露に大いに貢献したといってもいいだろう。

 犯人は、

「計画を入念に練ったつもりだったが、裏目に出たことも結構あった」

 ということだ。

 この事件において、門脇の立場は、実は、

「犯行を目撃した」

 と犯人に思われたようだ。

 しかし、しばらくして戻った記憶の中に、門脇が何も知らなかったということが分かり、こちらも、

「犯人の早とちりだった」

 ということであった。

 それを考えると、

「犯人は、これだけの計画を入念に練っていたわりには、肝心なところで抜けていた」

 ということであろう。

 これがまるで、三すくみのような循環性と、事件を複雑にするつもりもなかったのに、勝手に複雑になり、それが犯人の意図するところでもなかったということで、事件も、

「一つ露呈すると、すべてが、ひどい状態になった」

 ということになるのであった。

 それを思うと、

「三すくみのように、先に動いたりするとダメであり、動かざること、山のごとし」

 という言葉を思い出させるのではないだろうか。

 門脇と、門脇を襲った男、つまりは、強盗犯人。そして、腐乱死体の発見をさせた男、実はこの男が表には出てきてはいないが、共犯者だったのである。

 結局、すべては、この共犯者が計画をミスったことで、簡単に事件が露呈した。その時、捕まった真犯人は、

「こんなことなら、やらなきゃよかった」

 といって、悔しがっていた。

 この男からすれば、最後の最後で犯行をもう一人の男にすべて擦り付けて、自分だけ助かろうと思ったのだろう。これがすべての悪の権化だった。

 この事件で、実際には、誰も殺されてはいない。死体遺棄と、傷害事件と、銀行強盗だけである。しかし、ただの銀行強盗だけですぐに逃げていれば、こんなことにはならなかっただろう。

「完全犯罪でももくろんだのか?」

 すべてを解明した下瀬刑事は、そうつぶやいた。彼は、きっと犯人の気持ちになることができたのであろう。

「顔のない死体のトリック」

 そんなに簡単なものではないということであろう。


                 (  完  )

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死体損壊と、犯罪の損壊 森本 晃次 @kakku

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