第4話 殺人事件

 別に、ウソを言っているわけではないので、そこはどちらでもいいだろうと思っているのであったが、

「医者よりも先に、警察から聞くなんて」

 というのは、意外だったのだ。

 ひょっとすると医者は、

「警察からの尋問の時に何かを思い出すかも知れない」

 ということで、わざと門脇に言わなかったのかも知れない。

 下手にいうと、先入観が先に立ってしまって、潜在意識が薄れてくるのではないかと案が得たのだろう。

 そう思うと、余計に、思い出せそうで思い出せない自分は、

「頭痛がひどくなるばかり」

 ということで、刑事たちの前で、少し大げさに、傷んで見せたのだった。

「大丈夫ですか?」

 とさすがに刑事もたじろいでいるようだった。

 一応医者からくぎを刺されている以上、下手に患者を刺激してしまうと、

「今後の門脇に対しての捜査がやりにくくなる」

 ということで、

「必要以上のことはしないようがいいだろう」

 と考えているようだった。

 刑事というものは、捜査のためなら、多少強引なことをするものだ」

 と思っていたので、案外だったのは、自分でもびっくりだった。

「どうして、警察がそんなに困ったような顔をするんだろう?」

 と思った門脇は、刑事の一人に、

「私を殴った人間が、まったくつかめないということでしょうか?」

 と聞くと、またしても、二人は顔を見合わせて、

「あ、いや、実はあなたが殴られたことだけではないんです、今度の事件はですね」

 というではないか。

 何やら、

「奥歯に何かが挟まったかのようなその物言い」

 というものは、門脇に、気持ちの悪いものを与えた。

「何か、私に事情聴取して、私を殴った男以外の何かを知りたいということでしょうか?」

 と聞くと、二人は、何とも言えない表情で頷いたのだ。

「一体何があったというんです? ただの、暴行事件というだけではないということですか?」

 といわれたので、

「そこで、お聞きしたいのですが、殴られて、その後気を失ったということですが、その間、何か触ったりしましたか?」

 という。

「ん? 何が言いたいんですか? 殴られて意識がない状態で私に何ができるというんですか?」

 というと、

「実はですね。あなたを殴ったと思われる男が、そこから数十メートル行ったところで倒れていたんですよ、その男のそばに、鉄アレイのようなものが転がっていたんですが、その男は、あなたよりも、少しひどい状態だったのですが、命には別条はないようなんです。ただ。男のそばに落ちていた凶器に、あなたの指紋がついていたんですよ」

 というではないか。

「私は、たぶん、ふいに殴られたと思うんです。殴られたという意識もありませんからね」

 というと、

「いや、その通りだとは思うんですが、その男のそばに、凶器が落ちているというのは、どうにも腑に落ちないものでしてね」

 というので、

「警察は何が言いたいというのか?」

 と考えたが、なかなか思い浮かばなかった。

 警察の雰囲気を見ていると、

「まだ、何かを隠している」

 としか思えなかった。

 ただ、門脇は、普段からこんなに感がいいわけではない、医者がいうように、

「記憶を失っている」

 という状況から、普段には現れない、

「潜在的な意識が、勘を鋭くさせているということなのかも知れない」

 と思うと、

「それもまんざらでもないかも知れないな」

 と感じた。

 だから、余計に刑事が隠そうとしているのが分かるようになると、

「警察というのが、いかに厄介なものなのか?」

 と、テレビドラマなどで感じていることが、いまさらのように感じられるのであった。

 そんな目で二人の刑事の顔を見比べていると、さすがに刑事も、

「言わないわけにはいかない」

 と思ったのか、それとも、

「どうせ、遅かれ早かれ分かることだ」

 と感じたのか、観念して話をしてくれた。

「実は、あなたを殴ったと思われる男が倒れている近くで、捜索をしていると、ガードレールから向こうの木々が生えている傾斜になったところから、土が盛り上がっているのが見えて。そこを掘ってみると、腐乱死体が発見されたんです」

 というではないか。

「それが私とどんな関係が?」

 と聞くと、

「あなたを殴った相手が、ちょうどキリがいいように、その場所で倒れていたというのが、ただの偶然かと思うと、その男が、腐乱死体と関係していると思われる気がしたので、その男があなたを襲ったのには、何か理由があるのかと思って、それで参考までにお伺いしようと思っているところです」

 と刑事はいった。

 そういうことであれば分からないわけでもないが、まだ門脇には、もやもやとした感情が残るのであった。

「やはり、何かを隠している」

 と思ったが、それ以上い、

「記憶喪失というのは、こういうものをいうのだろうか?」

 ということであった。

 というのも、

「確か、記憶喪失というのは、すべてを忘れるわけではない」

 ということは分かっていた。

「自分が誰であるか?」

 あるいは、

「数日間のことを忘れてしまっている」

 というような、いわゆる記憶喪失というものはあるものの、

「食事をしたり、顔洗ったり、お風呂に入る」

 などという、日常の行動に関しては、記憶を失っているわけではない。

 何といっても、呼吸ができるのだ。本能的なことを忘れてしまうということはないだろう。

 それを思うと、自分の中で記憶がまったくなくなってしまったというのは、ありえないことなので、記憶の一部がないということであれば、

「そのうちに戻ってくるだろうな」

 と思えていた。

 ただ、それにしても、刑事のこの様子を見る限り、

「どうも、こちらの記憶が一日も早く治ってほしい」

 という思いがあからさまに感じられる。

「まるで、何か焦っているかのようにすら見えるほどで、その感覚は、どこまでなのだろうか?」

 と感じられるのであった。

 それにしても、刑事の話では、

「自分は、誰かに殴られて気を失った。そして殴ったと思わしき男が、これも誰かに殴られて気絶をしていて、その近くで腐乱死体が見つかった」

 という、何やら不可思議な事件である。

「警察は、その腐乱死体と自分を殴った男が何らかの関係があると思っているようだが、その男がこちらに殴りかかったということであれば、その理由のいかんにかかわらず、無関係ではない」

 と思っているのだろう。

 まず、門脇が考えてみると、考えられることとして、

 門脇が何かを発見したから、

「見られてはいけないという何かを見られてしまったのではないか?」

 ということから、

「自分への、殴打事件」

 というものが起こったという考え方である。

 ただ、そうなると、自分が倒れていた場所がおかしなことになるというもので、

「もっと自分の家の近くで倒れていたのであれば、その考えも分かるというものだが、刑事の話では、自分が家に向かっている途中に男が倒れていて、その下に腐乱死体があった」

 という、

「何やら、不可解な事件」

 という様相を呈しているではないか。

 それを考えると、

「順番からいけば、自分が先に殴られて、その後、その犯人が逃げる途中で、さらに、また誰かに殴られた。それが、腐乱死体の隠し場所を示唆するように倒れていた」

 というのだが、それが、本当に偶然だと言い切れないと考えているとすれば、

「自分が事件に何らかのかかわりがある。だから、殴られたのだ」

 と考えるのも無理もないことであるが、だからと言って、

「実際に、倒れていた場所の矛盾を、どう説明sればいいのか?」

 ということになるのであった。

 門脇に事件の内容に関するような話を聞こうと思っていた刑事2人は、

「完全な肩透かし」

 というところであろうか。

「また何か思い出したら、お知らせください」

 といって、二人の刑事は、引き上げていった。

 医者からも、時間制限をいわれていたので、最初は、

「時間いっぱい話を聞こう」

 と思った刑事たちであったが、そこまで聞き出せることもないと考えると、無駄足だったとも思ったが、それ以上に、一人の刑事としては、

「あの門脇という男、思ったよりも、頭が回るような気がするな」

 と感じたようだ。

 それが、

「記憶が消えているから、余計にそう感じるのか?」

 あるいは、

「元々、頭がいいのか?」

 のどちらかではないか?

 と思うのだが、どっちであっても、事件にかかわることで、

「彼は、それなりに何かの核心を掴んでいるのかも知れない」

 と感じたのだった。

 この刑事は、八木刑事といい、ここの署内では、中堅クラスの、

「主任」

 と呼ばれるくらいの人であった。

 そして、この時同行したのは、若手刑事でも、

「将来有望」

 と目されている下瀬刑事であった。

 要するに、

「将来有望な下瀬刑事を、中堅クラスで、後輩の指導も任されている八木刑事が、

「ビシビシ鍛えている」

 ということであった。

 実際に、事件の話になると、

「最近は、下瀬刑事の考えが、結構的を得ていたりするな」

 ということで、教育係といってもいい八木刑事としても、

「舌を巻いている」

 というほどであった。

 だからと言って、

「下瀬はすごい」

 ということを本人に思わせて、増長させるというのは、本意ではない。

「本人が自信を持つ」

 ということはいいことであるが、だからと言って、

「うぬぼれというのは禁物だ」

 ということで、八木刑事は、

「できるだけ自由にやらせながら、様子を見ている」

 というとことであろうか。

 だから、八木刑事は、一緒にコンビを組みながら、いろいろな証拠が出てくるたびに、

「下瀬は、この状況をどう思う?」

 といつも意見を求めるようにしていた。

 普通であれば、

「半分意見を聞いている」

 ということなのだが、下瀬刑事に関しては、

「ほぼ、その意見を鵜呑みにしている」

 と言ってもいいだろう。

 しかし、だからと言って、すべてを信じているわけではなく、

「聞き入れる部分はしっかり聞き入れる」

 ということをしているつもりだが、結局、いつも、そのほとんどに信憑性があり、それだけ、

「彼の理屈は一本筋が通っている」

 ということになるのだった。

 だから、八木刑事は、今回も、話を聞いてみた。

「下瀬君は、どう思うね」

 と聞いてみたが、下瀬刑事としても、

「そら来た」

 と感じたことだろう。

 これだけ毎度のことだと、分かるというものだ。

 だから、門脇に話を聞きながら、自分の中で、整理できるところはしていたつもりだった。

 しかし、今回は、

「門脇自身が、肝心な記憶を失っている」

 ということで、必要以上の話が利けるわけではなかったのだ。

 それを考えると、

「まだ何とも言えませんね。でも、あの門脇さんという被害者は、何かを知っている可能性は高いんじゃないかと思うんですよ。もっといえば、頭がいい人だと思うんですよ。そう思うと、彼が狙われたのは、何かを見たから狙われたというよりも、どちらかというと、

何かに気が付いたということから狙われたのではないかと感じるんですよね」

 というではないか。

 それを聞いた、八木刑事も、

「その件、つまり、門脇さんが、頭のいい人だというのは、私も分かっているつもりなんだけど、ただ、彼がこの事件において、どういうかかわりがあるのかということが分からない以上、今は何も言えないと思うんだよね。そういう意味でも、記憶を早く取り戻してほしいと思っているんだがね」

 というと、

「そうですね。でも、私は彼の記憶に関しては、そこまで期待はしていないんですよ。ひょっとすると、その記憶が事件の核心を掴んでいるものなのかも知れないと思うんですが、それには、もう一つ、門脇さんという人間の中のもう一つの扉が開かれないと、せっかくの記憶が、役に立たないということにならないかと思うんですよね」

 と下瀬刑事はいった。

 それを聞いた八木刑事も、頷いていたが、ただ、今は記憶がない以上なんともいえない。

「もう一人の被害者というか、門脇さんを殴ったとされる男はどうなったんでしょうね?」

 と、もう一人の男の方が傷が深く、昨日の段階で、まだ、意識が戻っていなかったではないか。

 同じ病院に入院していて、

「意識が戻れば警察署に連絡がいくようになっていて、刑事が事情聴取に来るように手配はしていた。

 今のところ、

「意識が戻った」

 という話も聞いていない。

 というよりも、その男がどこの誰なのか?

 ということも分かっていないという。

 身元を示すものは、何一つ所持していないようで、昨日、

「緊急手術」

 を行った時、衣類を着替えさせた時、衣服や荷物を調査されたが、その時は、身元を示すものが何もなかったということであった。

 手術は、何とか成功し、

「命に別状はない」

 ということであるが、意識はまだ戻ったとは聞いていない。

 もっとも、意識が戻ったとしても、緊急手術を行ったわけなので、そうすぐに、警察の事情聴取ができるとは思えない。医者からも、

「数日は、無理かも知れませんね」

 ということであった。

 とりあえずは、被害者二人の指紋を調べられ、凶器と思しきスパナのようなものの志毛照合が行われたが、ここで不思議なのは、

「門脇の指紋は検出されたが、加害者と思える男の指紋は検出されなかった」

 ということである。

「あの男は、、手袋などしていなかったので、もしあれが凶器だとすれば、指紋がついていないとおかしいんだがな」

 ということであった。

 ということになれば、

「犯人が、手袋をどうして持っていく必要があるというのか?」

 ということであった。

 状況から考えて、あれが凶器であることは間違いない。だから、指紋がなければ、

「手袋をしていた」

 と考えるのが自然なので、そんな分かり切っている手袋を、わざわざ時間をかけて外していくようなことをするだろうか?

 犯人とすれば、

「一刻も早く、現場から逃げ出したい」

 というのが、犯罪者心理というものではないだろうか?

 それを考えると、

「どうして、わざわざ手袋にこだわったのだろうか?」

 ということになるのだ。

 実際に、鑑識の発表では、

「凶器にはルミノール反応があり、2種類の血液があったようだ」

 ということであった、

 一人は、今昏睡場や胃にある、

「犯人であり、被害者である男のもの」

 ということであり、もう一つは、

「門脇氏のもの」

 ということが分かっている。

 そもそも、二人の血液型は違っていたことで、そこは安易に想像できた通りであった。

 そんな情報が、八木刑事にも、下瀬刑事にももたらされていて、それを考えると、

「二人の関係がどうであれ、少なくとも、凶器は、その場に打ち捨てられていた」

 ということであった。

 そもそも、

「犯人はなぜ、凶器を持ち去ろうしなかったのだろう?」

 指紋がついていないのは、分かっていることだし、わざわざ手袋を外して持ち去るようなことをしてまで、時間を食っているのにである。

 ちなみに、手袋を外した可能性はかなり高いといえるだろう、手首のあたりに、人の爪のようなもので傷つけられている痕が残っていたからだ。

 これも、医者が見ればすぐに分かるということ。不思議といえば不思議だった。

 下瀬刑事は、一つ気になっていることがあった。

「今回の事件は、殺人事件ではないということなんですよ」

 というではないか。

「というと?」

 と八木刑事が聞くと、

「一人が、門脇氏に殴りかかった。しかし、致命傷となるまでの傷を負わせたわけではない。記憶を失ってはいるが、ただの傷害程度の傷だったではないですか? それを思えば、元々最初に殴った男が、今度は、また誰かに殴られたわけで、その時はさらに強く殴られたわけで、だから、緊急手術にもなったわけでしょう? それを考えると、その犯人が殺されていないというのも、これも偶然ということなんでしょうかね?

 ということであった。

 八木刑事が考えていると、下瀬刑事が続けた。

「そもそも、あの男の身元が分からない。あるいは、誰かが、たぶん殴った犯人でしょうが、身元が分かるものを持ち去っているんですよ。ということになると、あの男こそ、何かの犯罪に絡んでいると考えられないですか? だとすれば、傾斜のところで見つかった腐乱死体というものが、どういう意味を持っているかということが分かってくるというものではないでしょうか?」

 ということを、考えているようだった、

「門脇さんの記憶が戻るか、あるいは、今昏睡状態の容疑者とされる男の意識が戻るかのどちらかでないと、事件は進展しないかも知れないな」

 と八木刑事はいったが、

「あと進展があるとすれば、腐乱死体の線から、今度の事件が、どう結びついてくるのか? ということに掛かってくるかも知れませんね」

 と、下瀬刑事はいった。

 もっとも、八木刑事もそれくらいのことは分かっている。

 それはあくまでも、

「刑事としての長年の勘」

 というとことであろうか。

 八木刑事と下瀬刑事は、

「これ以上病院にいても、今のところ進展はない」

 と思い、署に戻ることにした。

 署では、捜査本部ができていて、一応は、傷害事件ということで捜査であった。

 これは、

「明らかな連続犯罪だ」

 ということであるが、明らかに違っているのは、

「同じ犯人による犯行ではない」

 ということだった。

 最初に、一人の被害者が殴られたのだが、どこでどうなったのか、

「最初に犯行を犯した犯人と思しき男が、そのすぐ後に、誰かに殴られた」

 という

「連続犯罪」

 としては、少しおかしな犯罪であった。

 しかも、その近くで、

「腐乱死体が見つかる」

 ということで、

「この殴打事件と、腐乱死体とが、そもそも関係があるのか分からない」

 ということで、

「腐乱死体発見」

 という方も、鑑識の調査で、

「明らかな殺人」

 ということだったので、殺人事件として、別の捜査本部が作られたのであった。

 ただ、これは、

「いつ一緒になるか分からない」

 ということで、一種の、

「条件付き」

 ということであったのだ。

 腐乱死体の方は、完全な白骨死体というわけではなく、

「顔は普通であれば、見分けがつくくらいの腐乱状態だった」

 ということであった。

 鑑識としては、

「死後半年経ったか、経たないか?」

 というくらいのもので、

「顔がめちゃくちゃに傷つけられていて、もし、死後数日であっても、身元判明には、難しかったかも知れないな」

 というほと、

「身元を示すような部分は、故意に傷つけられていた」

 というわけであった。

「そんなにひどいものですか?」

 と捜査本部の現場指揮を執っている桜井警部が言った。

 こちらの、腐乱死体事件の捜査本部の長は、桜井刑事で。八木刑事がかかわっている、

「殴打事件」

 の方は、

「西尾警部補」

 がかかわっていた。

 何といっても、一つの所轄で、同時に二つの捜査本部っができるというのも珍しいことであり、それだけ、県警も気にしている事件であった。

 それを考えると、県警本部から、管理官と呼ばれる

「キャリア組」

 の人が詰めるように毎日のようにやってきている、

 特に、

「腐乱死体」

 の方を重点に見ているようで、

「やはり、傷害事件よりも、殺人事件の方が重たい」

 ということのようで、

「管理官も、そっちの方を重要視しているんだな」

 という当たり前のことを、いまさらながらに所轄も考えていたようだ。

 ただ、捜査本部ができてすぐであり、しかも、その内容が、

「顔のない死体」

 ということで、厄介だというのは当たり前であった。

 しかし、警察の捜査は、探偵小説とは違う。最初からこれを、

「顔のない死体のトリック」

 ということで決めつけることはできない。

 しかし、捜査員のほとんどが、これは、

「顔のない死体のトリックだ」

 と思っていたことだろう。

 当時の警察というか、管理官が絡んでくるような、重要事件を、警察がまさか、探偵小説と、リアルな犯罪とを混同して捜査するなど、普通に考えてありえない。

 そんなことをすれば、警察組織の存在価値を下げてしまうということになりかねないといえるのではないだろうか?

 と考えるのだ。

 警察というのは、組織捜査が当たり前のところであり、だから、捜査本部というものがあり、そこで捜査して集まった情報を、捜査に当たっている捜査員すべてが、その情報を共有し、それらの証拠や証人から得られる情報から、

「これから、そのような捜査をすればいいのか?」

 ということを話し合い、そこで生まれた結論通りに、捜査員は、捜査をするというのが基本だということである。

 だから、これは、

「いくら、管理官などの責任者であっても、決まったことを覆すような捜査をしていれば、捜査から外されても仕方がない」

 ということになるのだ。

 それだけ、警察組織というのは厳しき、時には、

「一番厳しい」

 といわれる縦割り組織というものに優先することもあるということであろう。

 今回のそれぞれの事件は、

「腐乱死体が見つかった」

 というのは、

「本当に偶然なのか?」

 というところが、今のところ、

「一番グレーであり、ひょっとすると、事件の中の核心部分になるのではないか?」

 と考える人が多いだろう。

 誰も、それに触れないが、心の中では、

「限りなく、偶然ということはないだろう」

 と思っているに違いない。

 ただ、今はそれを裏付けるだけの証拠がないので、仕方なく、

「捜査本部を二つ作ったということになる」

 ということであった。

「捜査本部というものを二つ作れば、それぞれの情報が共有されない可能性がある」

 というデメリットもあるし、少なくとも、

「腐乱死体を発見するきっかけとなった。傷害事件の容疑者が、今のところ、唯一の共通点として浮かんでいる」

 ということだ。

 しかし、今は事情聴取もできないほどのけがを負っていて、

「加害者でありながら、被害者でもある」

 という複雑な譲許も、

「彼が加害者ということであれば、彼によって被害を受けることになった門脇氏は、記憶喪失ということで、事情を聴いても、何も覚えていない」

 ということにしかならないのだ。

 とにかく、分かっていることというと、

「関係者、すべてが、証言をできる立場にはいない」

 ということだ。

「門脇氏は記憶喪失」

「門脇氏を襲ったと思われ、さらに、自分も誰かに襲われた人物は、安静状態で話ができないだけではなく、その身元すら分かっていない」

 さらに、

「腐乱死体も、故意に特徴のある部分を傷つけられていて、まさに、顔のない死体の様相を呈している」

 ということになるのであり、要するに、

「何も分かっていない」

 ということになるのだ。

 どれか一つでも分かれば、事件も進展するのだろうが、今のところは、

「関係者として表に出てきている死体を含む3人のうち、2人までが、その身元が分からない」

 という事件であった。

「まだまだ捜査はこれからだ」

 ということであるが、

 果たしてそうなのだろうか?

 これが、もし、

「関係のある事件であり、発見されたことも偶然ではなく、すべてが、何かの目的をもって計画された事件ということであれば、誰も口にはしないが、この事件は、顔のない死体のトリックというものが、どこかでかかわってくるのではないか?」

 と考えられるのであった。

 そのことを感じているのは、少なくとも、八木刑事と、下瀬刑事は、同じことを感じていたようだ。

 そのことについて、二人で話をすることはなかった。

 何といっても、

「身元も分かっていない人と、記憶喪失という人だけしか登場していないこの事件なので、それを口にするのは、時期尚早」

 ということであった。

 そして、二人が感じているのは、

「まだ今は出てきていない、隠れた人物が、裏に潜んでいる」

 ということであった。

「その人物が、この事件の本質にかかわっていることになるだろうということは、間違いないだろう」

 と思っていたのであった。

 だから、

「今度の事件において、その隠れていて、表に出てきていない人物をあぶりだすことが、先決である」

 ということになるので、そのためには、殴打事件の二人の証言が、必須であるということ。

 そして、もう一つは、

「腐乱死体」

 ということで、

「顔のない死体」

 というのが、果たして誰なのか?

 ということの追求が必要だ。


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