第2話鏡の向こうの世界

とは言ったものの。


「め、メイクって難しい…」


部屋で部屋着に着替えて髪もほどいて。前髪上げてメガネをしながら雑誌と睨めっこしてる。


明日は友達とコスメショップ行ってお化粧品を買う予定だから。


その前に予備知識としてお勉強してるんだけど、今まで1度も触れてこなかった私には何を言ってるのかよく分からないの。


ママに聞こうかな?


今キッチンでご飯用意してるし。


ーガシャン!!


「わ!な、なに?」


部屋に突然、何かが割れる音が響いた。


この部屋は私1人しかいないのに…兄弟もいないしママがキッチンにいるだけだから、キッチンで何か割ったにしてもこの部屋で聞こえるのはおかしい。


「まさか…幽霊!?」


ポルターガイスト現象って事!?


どうしよう、怖くて動けないっ


「ま…ママ…あれ?鏡が…嘘、どうなってるの?」


ガクガクする足ですぐに下に降りよう。そして今日はママと寝よう!と思って扉のドアノブに手をかけた時。


チラッと一瞬目に入ったあの姿見の鏡には、どこの部屋かも分からないヨーロッパ調の素敵なお部屋が映されてた。


見間違い?と思って見直してみたけどそんな事もなくて。


鏡の前に立って私を映そうとしてもそこには知らない部屋があるだけだった。


「どこのお部屋かな?どんな仕組みになってるんだろ?」


カラクリ鏡だった?


そんな安易な事を考えて触れてみる。


その触れた箇所は鏡とは全く違くて。


ートプン…


「え?」


まるで水の中に手を入れた時のように沈んでいく。


いや、これは吸い込まれていく?


「ど、どうなってるの!?抜けないっ!!」


グイグイと強い力で引き込まれる体はズリズリ音をさせながら抵抗する私を呑み込む。


いわく付きの鏡だった?


私、どうなっちゃうの?


「マ、ママ!!ママたすけー」


ードプン…


呑み…込まれちゃった。


あぁ、私死んじゃうんだ。


でもヤダなぁ。人生の最後に傷ついて死ぬなんて。


お化粧も頑張ればよかったー。そうすれば…


「…chi sei?(誰だお前)」


「…へ?」


「Come sei arrivato qui?(どうやってここに来た?)」


「え?え?なに、なんて言ってるの?」


死んだと思って目を閉じていた私。気がつけばそこは鏡に映っていたあのお部屋の中で、目の前には金髪の青い目をした外国人の男の子。


とても慌ててる様子で怖い顔で私を見てる。


ダン!!と私の耳の横の壁に強く手をつかれ、思わずビクッと縮こまってしまったわ。


これが恋人同士なら壁ドン?ってものだったんだろうけど、この人はなんだ怒ってるみたい。


「…Non capisci l'italiano?(イタリア語が分からないのか?)」


「???え、えっと…あなたは誰ですか?」


「はぁぁ…。Fatto….sono giapponese…(分かった、日本人だな。)あー。お前はどうやってここに来た。」


「わ!日本語お上手ですね」


「質問に答えろ。なんで突然現れた?刺客か?」


ギロっと見下ろす目がとても怖い。


嘘を言ったら殺す。そう言われてるみたいで返答に困ってしまう。


そんな睨まれても私自身、なんでここにいるのか分からないの。


あの姿見の鏡に触れたら…


「えっと…わ、私にも分からなくて…鏡に触れたんです。」


「鏡?」


「はい。…その、今日買った姿見の鏡にこの部屋が映ってて…触ったらここにいて…」


「はぁ?はっ(笑)さすがアニメ大国日本。言い訳もアニメじみてるな。」


「本当です!!私だって信じられないんです!!」


鼻で笑われてバカを見る目をされてる。


たしかに逆の立場なら私も信じられないけど、そんな目を人に向けないもんっ。


そもそもこの人はなんなの?


「…へぇ。じゃぁそれが嘘ならどうする。」


「ど、どうするって言われても…」


「ふん。もし嘘ならお前は俺の刺客って事で殺す。いいな。」


「殺す!?なんで!?」


唐突に言われた殺す発言に、驚いて男の子に聞くけどシカトされちゃった。


そのまま私を置いて、1つの大きな鏡の前に立ってるわ。


「…どうなってる?」


「あの、本当に嘘なんかついてなくて!!私鏡を使ってっ」


「うるさい。お前が出てきた鏡、これだろう?」


「え?あっ!私の部屋?」


うぅん。なんて手に顎を置いて考え込んでる。


鏡の向こうではママが『杏ちゃ〜ん?ご飯出来てるわよ〜』って呼びかけてる声までしてるの。


「アンズちゃん?」


「わ、私です。羽月杏はづき あんずと言います。」


「そうか。」


一度も私を見る事なく、こちらにかけよって鏡の前で髪を整えて全身を映して喜ぶママを見てる。


キャッキャとクルクルして、ハッとしたように私を探しに部屋を出て行っちゃった…


「能天気な母親だな。」


「ママは昔から天然さんです。えっと…」


「これで本当にここに来たならまた通れるだろ?行け。」


「私!?」


「何かあったらどうする。行け」


なんて恐ろしい…何があるか分からないのに行けだなんて。


でも。また通れるかもと言う理由も分かるから。


「も、戻りたいし…えいっ!!」


ートプン…


「!!。へぇ、なるほど。」


「わっ、わっ!!」


意を決して勢いよく鏡に触れた私の手は、来た時と同じように吸い込まれていく。


そしてー


ドサ…。


「ーっ。も、もどっ…た?」


私は部屋に帰る事ができました。



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