鏡の向こうとあなた。

ペンギン

第1話恋の終わりと鏡

「ごめん、やっぱなんか違うんだよね。」


「…え?」


ザァっと流れる風が、彼の言葉をさらっていく。


高校2年生の春。まだ桜の花がチラホラ咲いているこの季節、私はお決まりのデートコースで大好きな彼氏に振られた。


彼「なんかさぁ、お前大人しすぎるし。優等生?ってやっぱ合わねぇわ」


「ま、待って、、嫌な事しちゃったなら謝るよ…だからっ」


彼「いや、そういうのマジダリィ。地味だし。2組の未来みくちゃん並に可愛くなってから言ってくんね?」


「ーっ。ほ、他に…好きな子できた?」


彼「チッ。察し悪…。その未来ちゃんだよ、ちょー可愛いし。だから別れようぜ」


じゃ。


そう一言残して、面倒臭い人を見る目で睨んで去っていく彼。


私はー…そんな彼の背中を見つめるのが精一杯で…。


「ひっく…ひっく…」


友「もぉ、元気出しなよ。そんなのこっちから捨てるべきだって。」


「だって…好きだったから…」


呆然とする私に、異変に気づいた友達が声をかけてくれる。


初めての彼氏だったから思い入れ深い。


こんな酷い振られ方をするなんて少しも思ってなかったの。


友「にしてもアイツ、マジで許せない。あんず、見返してやろう!!」


「み…かえす?」


友「そう!杏はさ、もったいないんだよ。可愛い顔してるのにメガネに一つ縛りって。可愛くなって振ったこと後悔させなくちゃ!!」


「でも、そんな事しても私は未来ちゃんほど可愛くなれないしっ」


友「それでも!!周りが可愛いって言うようになればアイツ悔しがるから。ね?私も協力する。」


私の肩に手を置いて、力強い目を向けてくれる。この子がいてくれるなら…


私、変われるかな?


「わ、分かった…頑張るね」


友「そうこなくちゃ!帰り道にね、新しくできたアンティークショップがあるんだって。いいものあるかもだし、今日はそこ行こ!」


「う、うん!」


これが私の運命を変える出来事になったんだ。



友「わぁ、これも可愛い。ねぇ杏!これはどう?杏?」


「わぁ…素敵な鏡…」


手を引かれて連れてこられたのはレトロな雰囲気のオシャレなアンティークショップ。


発祥がイタリアって店主さんが言ってたから置いてある商品もヨーロッパっぽい。


とても大人びていて、やっぱり場違いだったんじゃって考えてたけどその中に一際目立つ姿見の鏡があったの。


店「この鏡が気に入ったの?」


「はい…なんというか。胸に刺さるものがあると言いますか。」


店「そうなの。買ってく?」


「え!?で、でも私こんな値段払えなくてっ」


女の店主さんにニコリと笑いかけられて勧められたけど、この鏡の値札には10,000円って書かれてる。


お小遣いの範囲内って思ってたから私5000円しかなくて…


とてもじゃないけど買えないよ。


店「また来てくれるならいい値でまけるわよ?いくらなの?」


「そ、その。お小遣いの範囲内って決めてたので5000円しかなくて…」


店「じゃぁ新規特典。50パーセントOFFね!」


「いいんですか!?」


店「もちろん!」


親指立ててウインクする店主さんの言葉に友達がキラキラとした顔で近寄ってくる。


半額にしてもらえたと言えば自分も!って名乗り出てるの。


こういう明るいところ、見習わなくちゃ。


友「この子ね、さっき彼氏に酷い振られ方して!見返す為に可愛くなるんです!!」


「い、言わなくていいよ…っお会計、お願いしますっ。」


店「そうなの?男ってほんと見る目ないわね。よし!じゃぁこの鏡はお姉さんから応援としてあげちゃう!」


「えぇ!?」


店「ただし!そんな男、絶対後悔させるのよ!」


友「やったじゃん杏!これでコスメも見に行こうよ!」


「い、いいのかなぁ…」


バァンって言って撃つ真似をしたお姉さんとピョンピョン跳ねて喜ぶ友達。


私は状況に置いてけぼりにされながらも素敵な鏡をもらって、この日は家に帰る事になった。


マ「おかえなさ〜い!あら?なに、それ?」


「か、鏡…もらったの…」


被せ物をした大きな鏡を、出迎えてくれたママが不思議そうに見る。


だから正直にもらったと言えば、パァァッと顔を輝かせてまぁまぁ!って喜んじゃってる。


マ「あらぁ!あらあらぁ!じゃぁお礼しないとね!どなたからかしらぁ〜?」


「アンティークショップのお姉さん。振った彼氏を見返しなさいって。」


マ「振られた!?杏ちゃんが!?それは辛かったわねぇ…よぉーし!ママも杏ちゃんの大変身応援するわよ!」


「ありがとう、ママ…」


お玉を振り上げて、エプロンのままフレー!フレー!なんて。


ママらしい。ちょっと元気出たかも。


「鏡、私の部屋に置くね。」


マ「えぇ!ご飯すぐにできるから降りてらっしゃいね!」


「うん。」


私、絶対可愛くならなくちゃ。


こんなにも色んな人に応援してもらってるんだから。






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