断罪クッキング!
ねこでした。
断罪クッキング!
「ねーちゃんたちさあ、通行料払ってねーのに侵入しちゃあだめだろ」
「通行料?」
アオイが小首をかしげて問いかける。
「ヒャハハ! そうそう。ここから先はオレたちの縄張りでな」
薄汚れた男が二人、通路に立ち塞がる。
片方は太めでもう片方は細身。どちらも見るからに下卑た目つきをしていた。
アオイは足を止めて振り返った。すでに背後の退路も塞がれている。
「残念行き止まりでーす」
背の小さな男が薄暗い通路でにやにや笑う。
ミドリがアオイの手をぎゅっと握る。
いつもの合図。
アオイはコクリと頷いた。
「おいおい、うつむいちゃってどうした? 有り金と装備全部置いてけばなんもしねーよ」
「そりゃダンジョンで裸とか、死ねって言ってるのと同じじゃねーか」
太めの男が下品に笑いながら言う。刃物の切っ先が時折、暗闇で光を跳ね返す。
「そりゃそうだ」
細身の男が続けた。
「それにこいつら顔も身体も良いしよ。たっぷり遊んでやろうぜ」
獣欲に満ちた視線がアオイとミドリの体を這うように動く。
「あは」
アオイの口から思わず笑いが零れる。
「なに笑ってんだこいつ」
突然の笑い声に男がいぶかしげに身構える。
それは正しい選択だった。
だが、もう遅い。
「レッツ! 断罪クッキング!」
アオイの声が合図となり、ミドリが配信用ドローンの偽装を解いた。
石壁に反射するアオイ白い光が通路を照らし出す。
「食材の皆さん! お待たせしました~」
アオイが楽しげに手を振る。無表情のミドリも小さく手を振った。
『やっとか』
『今日もクッキングなしかと思った死ぬかと』
『きたあああああああああああああ』
『俺の生きがい』
『今日の食材さんたちやばそう』
すぐにコメントが流れ始める。
男たちは状況が飲み込めないのか、ポカンと配信ドローンを見上げていた。
「【罪の暴光】」
ミドリのスキルが発動する。
男たちの周囲に、血のように赤い文字が浮かび上がった。
「殺人16件、強姦9件……」
ミドリが淡々と読み上げる。
「……その他、強盗致傷22件、恐喝37件」
『うわっ』
『救いようないくずじゃん』
『断罪してくれー!』
『これは上質な食材』
『お前らの末路をみんなで見守らせていただきます』
「クソ、こいつらもしかして!」
太めの男がなにかに気づいたように叫ぶ。
その声には今までなかった焦りが混じっていた。
「逃げるぞお前らッ!」
太めの男が後ずさる。
だが別の男が前に出た。
「バカ野郎、配信してんならリスナーどもにもいいモノ見せてやりゃいいじゃねーか」
「そうそう、その方が興奮するしな」
男たちは武器を構えながら、アオイとミドリを囲む形でゆっくりと近づいてくる。
太めの男だけが状況を察したのか。
「くそっ」
かけ足で逃げ出そうとした瞬間。
「【まな板の鯉】」
男は脱出に失敗する。
足下に白い板が浮かび上がっていた。
アオイのスキルによって出現した大きなまな板だ。まな板からは決して逃げることができない。
『出た! 名物スキル』
『あの板から逃げられた人まだいないよね』
『食材が逃げたらだめだろw』
「さてと、続けて──」
アオイは優雅な手さばきでエプロンを着け、包丁を取り出す。
「【三枚おろし】」
一瞬の早業。
何が起きたのか誰も目で追えなかった。
「は? 三枚おろしって俺は魚じゃねえよ」
相変わらず馬鹿にしたように吐き捨てた男は、そのままアオイに掴みかかろうとする。
次の瞬間、男は絶叫を上げて崩れ落ちた。
『で、出たーwww』
『グロくて草』
『マジで3枚おろしやんw』
『吐いた』
『何回見ても慣れないんだが』
男の体は文字通り三枚に別れ、胴体にはあばら骨と背骨が丸見えになっていた。
のたうち回る男を放置し、アオイは次の獲物に視線を移す。
「さ、触るなッ」
細身の男がアオイの接近を察知し、剣を突き出す。
ようやく、目の前の二人が獲物ではない事を理解したようだった。
それはあまりにも遅すぎた。
『てかなんで死んでないのあいつ』
『ミドリちゃんの【贖罪の猶予】だよ』
『そうそう、死なないと痛みも永遠』
『これぞ断罪』
リスナーたちの反応は手慣れたものだった。
「さあ、君はどんな風に調理されたい?」
アオイはにんまりと笑みを浮かべ、おびえる男に問いかける。
その瞳には、上質な素材を前にした料理人特有の輝きがあった。
「み、見逃してくれ……!」
「ありゃ、さっきまでの威勢はどうしたの?」
ミドリが腰を抜かした男を見下ろしながら言う。
声音は相変わらず冷たい。
「お願いします! もう二度と――ッ」
「ごめんねー配信者たるものリスナーの期待に応えなくちゃ」
アオイが包丁を軽く回しながら言う。
「ほら見て」
『お願い、スペシャルメニューを!』
『視聴者投票しよう』
『これだけの悪党、フルコースで』
チャットの盛り上がりは最高潮を迎えていた。
あまりの恐怖に男の膝が笑い出す。
アオイは満足げな表情を浮かべ、ミドリに目配せした。
「それじゃあ、本日のスペシャルメニューは──」
アオイが包丁を構え腕を上げる。
「極悪人のフルコース、始めさせていただきます!」
断罪クッキング! ねこでした。 @nukoneko
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