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 デザートも香のよい紅茶とともに堪能した。また来たいけどミナは連れて来れないなあ。そもそも私ももう来ない方がいいのかもしれない。彼はまた私が勤める店に来てくれるだろうか、ということも気にかかる。もしかして今日の出会い自体がまずいことだったのかもしれない。おいしい料理で一度は復活した気持ちが再び沈んで行くのが分かった。

 そんなことを思いながらお会計を済ませて店を出たのは9時前だった。店に入ったのが7時前頃だったので、ゆっくり食事してワインを頂いて、デザートに紅茶を堪能するのに2時間近く費やしていたのだ。一人でそんなに時間をかけて食事をしたのはたぶん今までの人生で初めてのことだと思う。これっきりになりたくない、心からそう思った。料理のことだけじゃなくて。

 沈んだ気持ちのまま俯いて歩き出したところで後ろから声を掛けられた。

「あの! また来ていただけますか?」

 川本シェフ。また帽子を取っている。わざわざ店の前まで出て来てくれたのだ。私は嬉しくて大きな声で応えた。

「はい! 絶対また来ます。とってもおいしかったです。ごちそう様でした」

「次回のご予約をいただければもっと腕によりをかけたものをご用意できますので是非……」

 予約、また会える約束。いつがいいかな、私が考え込む間に川本シェフが先に言った。

「来週の木曜日はいかがでしょうか?」

 来週の木曜日は出勤日だけど夕方からなら問題ない。

「はい。じゃあ来週の木曜日に! 時間は今日と同じ7時でお願いできますか?」

「承知いたしました! ところで何かリクエストはございますか?」

「フランス料理のことはよく分からないので、次回もシェフのおすすめでお願いします」

「分かりました」

「あの、私、佐々木望未です」

「はい。佐々木様、ですね」

 他人行儀な呼び方。ちょっと拗ねてしまいたくなるが彼にとって私は単なるお客様なのだ。仕方ない。

「お待ちしております。佐々木様」 そう言って深々と頭を下げる川本シェフ。つられて私も深々と頭を下げた。

 もう少し話をしたかったけど、まだお店は営業中だし、あまり引き留めてはいけないと思い直した。でも一言だけどうしても言いたいことがあった。

「お気になさらなくてもいいと思います」

「え?」

「男性が女性用の下着をお買い上げになること、お気になさらなくてもいいと思います」

 彼は私のその言葉を聞いて黙り込んだ。私はちょっと会釈して歩き出した。川本シェフは私が商店街の角を曲がるまで見送ってくれていた。



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