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 その日、私はミナとシフトが合わず、1人でお弁当を食べた。ミナが彼とのデートの関係でお休みを採ったから、今週はシフトが1日だけズレている。4カ月の研修中はいくら仲良しの同僚がいたとしても、やっぱりストレスが溜まるのは仕方ない。ミナの彼氏は土日が休みではないらしいから、彼氏の休みに合わせてミナも月に1回は平日に休みを取っている。休み明けはすっきりして機嫌がいいのだが、休みの直前のミナはいつも機嫌が最悪で、正直勘弁して欲しい。さっさとエッチして発散して来いよ!って言いたくなる。ああ、端ない(はしたない)ことを思ってしまった。ミナ、ごめんなさい。


 そんなミナがいない平日の午後、ちょっとショックな出来事があった。別に私が仕事をしくじって叱られたとかじゃない。休憩明けで私がカウンターに入って、何となく店内モニターを見ているときだった。私は万引きを見つけてしまったのだ。マニュアルに従って店長に連絡。店長がモニターの画像を確認。まだ店内にいるその男性のお客様に店長がお声がけした。

 私は嫌な予感がした。その男性が万引きしたと思われるコーナーは女性下着のコーナーだったのだ。もちろんいつも女性用下着をお買い上げいただくお客様ではない。

 案の定、その男性の持つトートバッグから未精算の女性用下着、ショーツ、キャミ、ブラジャーが見つかった。その男性は土下座して警察に通報しないでくれと懇願していた。かなりいい年齢の男性だ。奥さんや子供もおられるのかもしれない。女性用下着を万引きしたと家族に知れたらきっとタダではすまないことは容易に想像できる。なのに何故? と思うのだが……

 マニュアルでは「警察に通報する」と書かれている。でもそのとき店長はその男性の免許証のコピーを取って、もう二度と万引きしないことを約束させて解放した。

「もしまた別の店でも万引きしたことが分かったら、今日の一件もバラしますよ」

 そう念を押してのことだった。私は内心でホッと小さな胸を撫でおろした。店長のこの采配には感激したものだが、万引きした男性の平謝りする姿が痛々しくて、ちゃんと購入してくれていたらと思うと、いつものお客様のことも考えてしまって、私はその日1日気分が沈んだままだった。


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