第25話 緊急クエスト
アクアマリン湖の北にある大きな山岳にはかつて古代ドワーフの帝国が存在した。
ポゴスタック帝国は山岳内のダンジョンから得られる豊富な資源と高い魔導工学技術によって、中央大陸にあるネフライト王国を除くすべての国を征服し、支配した。
これが後の歴史で言うところの統一帝国時代である。
ジャイアント達が西大陸に追放されたのもこの時代のことだ。
しかしながら、
技術の流出を恐れて山岳内の帝都に閉じ
時代が進み中央大陸が平穏を取り戻した後、ポゴスタック帝国の遺した財宝を求めて多くの探索者達が山岳内にある帝都跡地に向かった。
しかし、彼らは誰一人として生きて帰ることはなかった。
一攫千金を求める命知らずの探索者達を一人残らず平らげていくこの人食いの山岳は、いつしかこう呼ばれるようになった。
――デスマウンテンと。
「すべての始まりは、デスマウンテンの
エクレアは金魚鉢の中から紙束を取り出してテーブルの上に広げた。
それは古い文献や資料の写しだった。
その中にある一枚の写真に、巨大な人型のロボットのような絵が写されていた。
注釈を見るに、おおよそ40mほどの全長があるようだ。
「ギガンティックタイタン。はるか昔にポゴスタック帝国が建造した人造ゴーレムよ。こいつがデスマウンテンの
「なるほどのう、こいつは厄介じゃ」
「どう厄介なんだ?」
「この巨大な人造ゴーレムは非常に高い魔力耐性と再生能力を有しているの。かつてポゴスタック帝国はネフライト王国を滅ぼして世界樹を手に入れる為だけに、万を超えるギガンティックタイタンを建造して戦線に投入したと言われているわ」
ネフライト王国にはこの世界に一本しか存在しない大木、世界樹がある。
国名にもなったように、その木はとても美しい
月の光を受けて魔力を蓄える性質を持つその枝は魔導バッテリーの原料となり、採取された葉は魔力を回復するポーションの原料になる。
これは地球で例えるなら世界に一つだけしか存在しない油田を押さえているようなものだろう。
古代ドワーフが技術の秘匿に
技術的優位性が失われてしまえば、まず間違いなくエルフの扇動と反乱によってポゴスタック帝国の支配構造は破壊されていただろう。
「ネフライト王国はよくこんな連中から国を守れたもんだな。一体どうやったんだ?」
「わしは知っておるぞ」
「知っているのかアンバー」
「うむ。地平線を埋め尽くすかのようなギガンティックタイタンの大群に攻められたネフライト王国の女王は、魔導スキルを使ってどでかい落とし穴を掘って地中に生き埋めにしたのじゃ」
なんとも原始的な方法だった。
確かに無敵の相手に対してステージギミックで対処するのは定石と言えるか。
「今もネフライトの国境付近には無数のギガンティックタイタンが埋まっているわ。魔導学院は過去に何度も調査を行おうとしたんだけど、元老院の邪魔が入って未だに一体も処理できていないらしいわ。だから、こいつを破壊する方法はまだ誰も知らないの」
「それでも対処法があるなら問題はないだろう。同じように生き埋めにしたらいい」
「時間さえあればそうしたわ」
「おいおい、どういうことだ」
「土砂崩れが発生したのが深夜だったのが災いしたわ。気付いた頃には既にこの街の付近まで接近していたの。このままでは街に到達するまで、後2時間も残されていないわ」
どうにかならないのか?
ジャイアント達に頼んで頑張って落とし穴を掘って貰うとか。
いや、頑張って掘ったところで迂回されたらおしまいか。
天候も最悪だし、なんて時にやってきてしまったんだ。
「街に被害が出る前に、何とかしてこのギガンティックタイタンを無力化する必要があるの。幸いなことに物理耐性そのものはそこまで高くないと資料には記されていたわ。だからこの街で一番筋力の高いアンバーの助けが必要なの。アンバー、お願いできるかしら」
「うむ、わしに任せるがよい。わしはゴーレム狩りのプロじゃからな。いつもよりも4倍ほどでかいようじゃが、攻撃が通るならば何とかなるじゃろう」
「ありがとう、アンバー。それじゃあ今すぐ探索者ギルドに向かいましょう。向こうでアルメリアとアイリスが先に準備を進めているわ」
「おい、俺はどうしたらいいんだ?」
「アンタは足手まといだから宿に待機していて
「何を言っているんだ、俺はアンバーのパーティーメンバーだぞ。彼女が行くなら俺も行く。当然だ」
「お主……」
恋人を危険な戦場に送り出して、自分だけのうのうと待っているだなんて御免だ。
生きる時も死ぬ時も、俺達はずっと一緒だ。
あの夜に、二人でそう約束したんだからな。
「はぁ、しょうがないわね。ついてきなさい」
俺達は急いでテーブルの上に散乱していた資料や本、それに原稿を片付けると部屋に戻って戦闘用の探索者服に着替えた。
そして準備が完了して宿を飛び出そうとした俺達を、親父さんが呼び止めた。
「待ちな、二人とも。こいつを忘れちゃあいけないぜ」
親父さんが持っていたのは二枚のレインコートだった。
外は土砂降りの雨だから、レインコートを着たところで焼け石に水だろう。
それでも、その親父さんの優しさに心が温まった。
「親父さん……ありがとうございます」
「気を利かせたようですまんのう。助かるのじゃ」
「俺達にできるのは飯を作ることだけだ。宴会の支度をしておくから、必ず生きて帰ってこい。分かったな」
「分かったなー?」
「はい! 行ってきます!」
「行ってくるのじゃ!」
こうしてレインコートを着た俺達は、親父さんとモモちゃんに見送られながら宿から飛び出していったのだった。
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