第13話 褐色スク水ダークエルフ
俺が蝶のデザインのあしらわれた扉を開くと、カランカランと音が鳴った。
魔道具工房バタフライの店内は相変わらず閑古鳥が鳴いているようで、客は誰もいなかった。
カウンターを見るとスク水を着たダークエルフの少女、アイリスが椅子に腰掛けて本を読んでいた。
「あれ、アルメリアさんは?」
「ママなら湖行ってるよー」
「ありゃ、残念。聞きたいことがあったのに」
「わたしが聞いてあげよっか?」
「いいの?」
「いいよ、わたしも暇だし」
彼女は本を閉じて机に置くと、こちらにその紫色の瞳を向けた。
アイリスはアクアマリン一の魔導具職人であるアルメリアから相伝の技術を伝授されたエリート少女だ。
彼女は若干14歳という若さにも関わらず、難易度の高い複数の魔導技術資格を取得している。
今日行ったマジックバッグ屋とか、魔導具の修理を行う店舗とかを開ける資格だ。
「実は明日から二層に挑戦する予定なんだ。だから何か探索に使えそうな面白い魔道具がないかなと思って」
「
「キュアポイズンの杖はこの間買ったし、しばらくはいいかな」
俺は何度かこの店に顔を出して、こまめに魔道具を買い足していた。
装具に登録するほどでもない水筒とか懐中時計とか、そういうやつだ。
「面白い魔道具ねー、何かあったかなぁ」
そう言うとアイリスは席を立ってカウンターの奥にある棚を漁りだした。
棚には何に使うのか分からないようなアイテムがごちゃごちゃと積まれている。
まあ、おおよそ魔道具の材料といったところだろう。
現在普及している魔導具は、安価な魔石交換式と高価な月光充魔式の二種類に分類されていた。
太陽光発電ならぬ月光発魔である。
この世界の全ての生物は、天に浮かぶ青白く発光する月から降り注ぐ魔力を活力に変えて生きていると言われている。
その証拠に昼間と夜間の魔力回復速度には有意な差が発生しているし、異界であるダンジョン内部では人間はレベルアップ以外の一切の魔力回復ができなくなる。
一応、魔力を回復するポーション自体は存在しているが、大陸の北にあるエルフの国がその製法を独占している為に非常に高価だ。
Eランク(約100MP回復)の魔力回復ポーションですら一本1000メルはする。
三本飲んでようやくフレイムカノン一発分だ。
こりゃあ
昔は月光充魔式の魔力バッテリーなんて街灯などで使われる設置型の大型魔導具くらいでしか使われていなかったようだが、魔導技術の進歩によって小型化が進んで生活魔導具にも利用されるようになっていた。
まあ、安価に魔石が供給される迷宮都市ではあまり需要はないようだが。
こういうのは近くにダンジョンがないような地方向けだな。
「あったあった、これなんかどう?」
アイリスは奥の棚から一つの箱を取り出して持ってきた。
箱の中には上部に魔石が付いた手榴弾のようなものが沢山転がっている。
「何これ? 爆弾か何かか?」
「いいカンしてるじゃん。これはマジックボムだよーん」
だよーんじゃないが。
そんな危険物、雑に扱っても大丈夫なのか。
俺がおっかなびっくりつついていると、彼女は呆れたような顔をした。
「そんなにビビらなくても魔力を込めなきゃ爆発しないよ。ねえ、使い方知りたい?」
「知りたい」
「これねー、安全ピン抜いてレバーを握ったら好きなだけ魔力を込めて投げるの。数秒で爆発して半径5メートルくらいは吹き飛ばせるよ」
「めちゃくちゃ危険物じゃないか」
「子供のオモチャだから普通に使うならそんなに怖くないよー」
ただのかんしゃく玉かよ。
待て、今普通に使うならって言ったよな。
普通じゃない使い方があるのか。
「……普通に使うなら?」
「うん。ハルトくんってさ、魔力Sランクあるんでしょ? それ全部突っ込んだら五層の魔物でも一発で倒せると思うよー。まあ理論上の話だから実際に使われたことはないんだけどねー」
ヤベー兵器じゃん。
いや、フレイムカノン30発分の魔力を込めるんだからそれくらい火力が出て当然なのか。
どちらにせよ、子供のオモチャとして扱っていい代物じゃない。
「これ、1個いくら?」
「20メルだよー。安いでしょ」
「やっす! 10個買うわ」
「毎度ありー」
今ならマジックバッグがあるからな、鞄の肥やしにしてもいいだろう。
とはいえ余り適当に放り込み過ぎて大事な時に取り出せないようじゃ困るから、定期的に中の整理はしておかないといけない。
俺、片付け苦手なんだよなぁ。
買い物は終わったが、すぐに退店するのもな。
今日はスク水ダークエルフの乳を見にきたわけだし。
アルメリアが帰ってくるまで、暇つぶしにちょっとした世間話でもするか。
「アイリスってさ、あの母親からスク水を強制されてるわけだけど、実際その辺りどう思ってるの? みんな家から出るくらいだからやっぱり嫌なのかな」
「んー? わたしはあんまり気にしてないかなー。だって生まれた時からずっとこの格好してるわけじゃん。ママはお金だけは持ってるから無駄にいい素材使ってるし、わざわざ変えようなんて思わないよー」
マジでか。
あの女、頭がおかしいのか?
とはいえ、ついにこの店の跡継ぎになれるような人材が現れたのも事実。
努力(?)のかいはあったようだ。
「そうか、それなら俺も気にしないようにする」
俺はそこら辺にあった椅子に腰掛けると、ポーチから取り出した本を読み始めた。
「あっ、それもしかして『ネフライト式魔導スキル百選』?」
「そうだけど、アイリスも読んだことあるの?」
「あったり前じゃん。あの魔導学院が発行している専門書だよ? 読まない
「モグリで悪かったな……」
魔導学院はこの世界でもっとも長い歴史を誇る研究機関だ。
中央大陸の北のエルフの国ネフライトの中心地に建っているらしい。
あの魔力回復ポーションを開発したのもここに所属している研究者だ。
「俺なー、器用さ低くて困ってるんだよな。アイリス、なんかいいスキル知らない?」
俺はそう言ってアイリスにギルドカードを見せた。
ハルト・ミズノ 18歳 ランクE
魔力S 筋力E 生命力E 素早さE 器用さE
ここ1ヵ月の間に俺のレベルは4上がって6になった。
魔力の上昇量は1レベルにつき5%くらいかな。
体感だから、あんまり明確な数値は出せないが。
「うっわ、ギフトホルダーだ」
「そうでもなきゃそうそう魔力Sには行かないだろ。で、何かないのか?」
「そうだねー。あれとかどうかなぁ」
彼女は俺から本を奪ってパラパラとめくると、あるページを開いて渡してきた。
「プロテクション?」
「魔法障壁の一種だね。これは魔導具で作ると個体識別が面倒で大型化しちゃうんだけど、スキルはその辺り割とファジーだからかなーり有用なんだよねー。ハルトくんは器用さが低いから効果時間は短いけど、魔力が高い分硬さは折り紙付きだし、
アイリスがプロテクション、と言ってスキルを発動させると彼女の周りに半透明な青い障壁が発生した。
「なにこれ、超格好いいじゃん!」
「これ、バリアを張りながら中から
「すげーな、本当に入れない」
俺がべたべたとバリアを押していると、その手が急に壁をすり抜けた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
両手に伝わる柔らかい感触。
こ、これは伝説のラッキースケベだ!
……うーむ、まだまだ発展途上だな。
後10年は欲しいところだ。
「……いつまで触ってるの?」
「ご、ごめん」
正気に戻った俺はバッとその場から離れる。
アイリスはその長い耳を赤く染めながら、両腕で胸を隠していた。
「……今ので分かったと思うけど、発動者が味方と認識した相手はバリアの中に入れるの」
「なるほどなぁ。よし、今から練習してみるか」
「人のおっぱい揉んでおいてなかったことにするなんて、ハルトくん良い度胸してるねー」
俺は聞かなかったことにした。
「プロテクション! ……こうか? プロテクション!」
「うるさいなぁ……」
今日はあのスク水ダークエルフの乳を見にきたのだ。
それまでは絶対に帰らないぞ!
飽くなき巨乳への情熱が俺を突き動かしていたのだった。
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