第15話 聖騎士
森の中にいた。
今の今までゲイゼルに抱きかかえられ、奇怪な魔族と狭い通路で戦っていたのが、突然周囲が開け、暖かな日差しと豊かな森の匂いまで漂ってきた。
「――左様にございます。この森の奥に棲む
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには鎧の一団を先導するあの背中の曲がった魔族――カジモドが居た。
私は駆け寄る。
「その男は魔族です! 気を付けて!」
けれどその声に反応する者は誰も居なかった。まるで私など目に入っていないかのように一団は森の中を歩いていく。
先頭には赤い髪の見惚れるほど美しい女が居た。まだどこかあどけなさの残る、勇ましいと言うよりは若々しく可憐な女戦士だった。その左右には同じように高価な鎧を纏った女戦士。
私は仕方なく、カジモドの真後ろをついていく。
◇◇◇◇◇
「おお、あれは! あれは魔族が手下にしている
茂みからやや大きくはあるも、捩じれた二本の角の生えた茶と白の混ざった兎が一羽、飛び出してきた。
「なんだ、可愛らしいじゃないか」
「いいえ、いいえ、あの見た目に騙されてはなりません。あの
女戦士の一人に、カジモドが長々と返していた。
「いけません! この魔族はこうやって皆さんを油断させているのです!」
しかし、私の言葉が届いたようには見えない。
カジモドに近づくと、背中側の服の中から
私は思わずカジモドに掴みかかった。
『人間共め、皆殺しにしてやるわ!』
「えっ!?」
私はカジモドから手を放して周囲を見渡すが、他に魔族は居ない。だけどどこからともなく声が聞こえてきた。再びカジモドに掴みかかると――
『……がしかし、あの女だけは殺すなとはどういう訳か。殺さず追い詰めよとはどういう訳か。聖騎士など、若いうちに殺してしまえばよいのに』
やはりだ。やはり声が聞こえてくる。
これはカジモドの頭の中の声?
『まあよいわ。聖騎士なら早々死ぬまい。
頭の中の声と、背中からの声が重なったと思った瞬間、魔力の奔流が女戦士の一団を飲み込んだ!
「わっ!」
「キャッ!」
「これは!?」
ふわりと宙に浮く彼女たち。ただ、我々と違ったのはここが天井も何もない屋外と言うことだった。見る間に50尺からを空へ
「
「
「聖騎士様、ご自身をお守りください!」
「どっ、どうすれば!?」
上空に放り上げられた鎧の一団は混乱していた。何人かは
見ていられなかった。
私は飛び出してその赤い髪の女――聖騎士の落下の衝撃を少しでも和らげようと、無謀にも走り込んだのだ。ただ――
ドン!――という衝撃音と共に、主神様の紋様が赤い髪の女を取り囲み、まるで何事も無かったかのように着地した。私自身にも何の衝撃も無かった。
「アネッサが! 早く、治療を!」
聖騎士が目の前の女戦士を見て叫んだ。
女戦士は両足がおかしな方向に曲がり、片方は明らかに骨が飛び出ていた。
「聖騎士様、ご無事ですか!?」
「ひぃっ!」
魔術師の声に聖騎士は振り向いた。もう一人の女戦士は仰向けに倒れ、目を見開いたまま微動だにしなかった。
「聖騎士様、私の回復魔法では足りませぬ。
「
「レグレイはおそらく大丈夫。気絶してるだけ」
二人の聖堂騎士がアネッサと呼ばれた女戦士を治癒する。しかし古王国の時代ならいざ知らず、今は魔術も聖堂騎士の魔法も伝説に謳われるほど力を持っていなかった。そして魔術師はというともう一人の女戦士の様子を見ていたが――
「ダメ! カジモドから目を離さないで!」――必死に叫ぶが彼女らには届かない。
ズバッ!――ひとりの聖堂騎士の腕が弾け飛んだ!
「えっ…………いやぁぁあああ!」――聖騎士の声が辺りに響く。
カジモドだ! 一瞬、カジモドの舌が伸びたのを見たが、誰も気付いていない。
「ひいぃ!
わざとらしく叫んだカジモドは、
「聖騎士様、あちらを先にやります。援護を!」
そう言った魔術師が
赤髪の聖騎士は震えながらも立ち上がり、剣と盾を構える。
「カジモドを見て! カジモドを!」
私の願いもむなしく、誰もカジモドを見はしなかった。
カジモドは再び、彼女たちの死角から舌を伸ばし――
ゴボッ――魔術師の詠唱が途絶えた。背中からカジモドの舌に貫かれたのだ。
「見えない! 攻撃がぜんぜん見えないっ!」
倒れた魔術師に気付いた聖騎士は混乱していた。目の前の
私はカジモドの元へと向かい、殴りつける。しかし拳はこの光景に何も影響を及ぼせなかった。さらにカジモドは舌でもう一人の聖堂騎士の脚を刎ねた。
『愉快、愉快。皆殺しよりもこの方が追い詰められそうだ』
カジモドは、必死になって
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