第10話 噂

公爵家との会談が終わった翌日、ミスティカの周囲は俄に騒がしくなった。


「ねぇ!社交棟でスペルキャス公爵家とお話し合いしてたんでしょ?

スペルキャス家に就職するの?ミスティカは優秀だもんねー!」

「婚約だったりして!?きゃー!」

仲の良い友人とのランチも、公爵家との会談の噂で持ちきりだ。


「もう。恥ずかしいから騒がないで。それに正式に発表されるまでは何も言えないわ。」


どうやら社交棟で公爵家のいらっしゃる部屋に通されたところを誰かに見られていたらしい。

ただでさえ私は、生徒会のメンバーにいることで目立ってしまっているから注目されてしまうことが多いのに、完全に悪目立ちしてしまっている。


「ウィズディア子爵令嬢!ちょっといいかしら。

ランチ中にテーブルへいらっしゃったのはポンパルト侯爵令嬢だ。

いつも生徒会でアルノール様とべったりされている方で、話したことはほとんどない。


「スペルキャス公爵家の皆様とお話し合いなさったらしいじゃない。どんなお話をされたのかしら?」


「申し訳ありません、ポンパルト侯爵令嬢。

私の口からは申し上げることができません。

ですが、いずれ発表できるかと思います。」


「それじゃ遅いから言っているんでしょ!

私が嫁ぐはずの公爵家にあなたのような子爵家の娘が仕えると格が下がるのよ!

もし公爵家に就職を持ち掛けられたのなら、正式に発表される前に辞退してちょうだい!良いわね!?」


「私にはその権利はございませんので…」


「断ればいいだけでしょ!?それからあなた…。」

ポンパルト侯爵令嬢は先程騒いでいたうちの1人に声を掛ける。


「子爵家の娘如きが公爵家に嫁げるわけがないでしょう?

公爵家に相応しいのは身分が釣り合って、公爵家の方に見初められる、私のような女性なの。

口を慎みなさい。」


「も、も、申し訳ありません……。」

子爵令嬢のマリナーラは真っ青で涙目だ。


「じゃあ、辞退しておいてね!」

そう言い捨てて去ってしまった。


やっぱりポンパルト侯爵令嬢はアルノール様がお好きなのね。

そしてアルノール様も婚約を持ちかけていらっしゃる…。

第一夫人になられる可能性が高いわ。

就職でこの反応なら、第二夫人とわかったらどうなるのかしら…少し憂鬱ね…。


それはそれとして、これでポンパルト侯爵令嬢が公爵家に嫁ぐという噂が学園中に広まることになるでしょうね。

公爵様は第一夫人に社交と家の中の執務だけでもできる方をとおっしゃっていたけれど、あの方はどうかしら……。

社交は女性の世界。

けれどあの方はあまり女性受けは良くないのよね…。

それに執務も…成績は侯爵家のご令嬢にしては低めだし、生徒会の仕事は周囲に丸投げなさっている側の方だし…。

アルノール様の意向が通るのか、公爵様の条件が遵守されるのか、それによって私の立ち位置も変わるのでしょうね。

とは言っても何ができるわけでもないけれど…。


本当にアルノール様と上手くやっていけるのかしら。


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