第7話 公爵夫人の回想

アルノールとイルミネルの生家であるスペルキャス公爵家の夫人視点

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私はハルフィア.スペルキャス。

スペルキャス公爵家の第一夫人で、次男アルノールの母。

もともとは伯爵家の出身だ。


長男のイルミネルは私の前の第一夫人の息子。

忌まわしい侯爵家出身のあの女の息子。


元々は私が夫と婚約をしていた。

父親同士が決めた婚約で、夫には私への気持ちなどなかったのだろう。

だが留学から帰ってきたあの女の帰国パーティーで

一目惚れしたらしい。


夫は多額の慰謝料と、別口の縁談の話を持って我が家へやってきた。

慰謝料は受け取ったが、縁談は断った。


「このお金があれば、独り身でも家に置いてもらえます。

しばらくは貴方様をお慕いしていたいのです。」


夫に気持ちなどなかった。

ただ、あの女に私のものが奪われるのが許せなかっただけだ。

私のものをことごとく奪っていくあの女が。


私とあの女の因縁はデビュタントまで遡る。

初めての夜会に私は張り切ってドレスを注文した。

基本的な型はカタログから、そしてそれをアレンジしたセミオーダーのドレス。


なのに次に我が家にデザイナーが来たときには、侯爵令嬢がそのドレスを選んだので作れないと言う。

この国は身分の序列がはっきりしている。

よくあることと言われればその通りだし、準備期間は長めに取っていたので、問題なく用意はできた。

しかし人生の中で1度しかないデビュタントに泥を塗られた気がした。


夜会へ行けば誰が同じドレスを注文したのかすぐにわかる。

その姿を見て、私は一層落ち込むことになった。


アレンジが大胆に施されているのに品が良く、派手な色であるにも関わらず上手に着こなしていた。

私が予定通りにあのドレスを着ても、あのように素敵な仕上がりにはならないだろうと容易に想像ができた。


「貴女がハルフィア.ミルフィー様かしら?

ドレスの件はごめんなさいね。

出来上がった後に聞いたものだから……。

でも私たち好みが似ていると思うの。

だから、良かったらお友達になってくださらない?」


そんなことを言っておっとりと微笑むあの女。

侯爵令嬢に言われたら伯爵家の私は断れない。

父はこの縁を喜んだが、私はちっとも嬉しくない。


それからもあの女とは高等学校で誰が気品と教養がある女性かを競う淑女コンテストや、国で男女1人ずつだけ選ばれる国費の留学生など、様々な場面で私の前に立ちはだかって、尽く私の邪魔をしてきた。

あの女の言う通り、私たちはやりたい事や趣味が似通っていたのだろう。


「ハルフィアは私の1番の友であり、ライバルなのです。」

あの女はそう言うが、私にとっては邪魔者でしかなかった。

あの女に張り合うために努力してきた。

伯爵家とは思えない程の優秀さと認められ、公爵家との縁が繋がった。


なのに……。

帰国して早々、またあの女は私の邪魔をするのよ。

公爵家の当主はあの女の息子には渡さない。

私の息子は愚かで怠惰だ。

それでも憎きあの女の息子には譲らない。

今度は絶対に。汚い手を使ってでも。


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