第6話 イルミネルの決意
今回はイルミネル視点です。
ミスティカと食事をした後のお話。
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ふふふ…。
驚いた顔がとても可愛らしかったなあ。
ミスティカ嬢の第一印象は真面目で有能だけれども、そんな役回りを押し付けられがちな気弱なご令嬢というものだった。
自信がないのか俯きがちだし、表情もあまり明るいとは言えない。
ミスティカ嬢が生徒会に入った時期はちょうど持病でなかなか顔を出せない、出せても指示出しがやっとという状態だった。
そのため、ミスティカ嬢と同い年で入ったばかりのアルノールが、私に代わって指揮をとっていたらしい。
身分は劣るが、私の1つ下の侯爵家の子息に話を聞いて回すように伝えてもらったはずだったが、自分が1番上だとろくに話もしなかったらしい。
そんな彼は口うるさいとミスティカに次いで書類に埋もれる立場になっていて、申し訳なく思っている。
ミスティカ嬢との食事を終えた私は、側仕えたちと自室に戻る。
自室に戻ると待ち受けているのは大量の書類だ。
父からは領地の仕事、母からは家に関する書類をこちらに丸投げされる。
父は国王陛下の側近の1人のため、領地の仕事まで手が回らない。
以前父に仕えていた侍従が全て領地の仕事を担っていたが、父の教育係として公爵家に入ってきたために私が高等学校に入る頃には高齢だった。
有能な侍従は最後の仕事と基礎教育が終わった私とアルノールを教育してくれた。
アルノールは基礎教育が終わっても半分程の知識しか身に付かず、早々に見限られていたが…。
その侍従の代わりにと、父の代わりに執務をこなすのももう慣れた。
ああ。この厄介な案件をミスティカ嬢ならどう解決するのか…。
私とは違う視点で綺麗に解決してくれるに違いない。
私が初めてミスティカ嬢を素敵だと思ったのは、彼女が入学して半年経った頃のこと。
領地の新たな特産にしようと特殊な土を使った焼物を取り入れたのだが、その特殊な土は保水性が極めて高く、川に捨てると水位が上がったり、水が汚れたりするという意見が上がってきた。
村をあげての産業にしようと大規模に始めてしまったため、数年経ってからもう捨てる場所がない上に、川も少しずつ水位が上がるということになってしまったらしい。
私はその泥を乾燥させて再利用できないかと考えていたが、その話をしたミスティカ嬢から汚泥の中で育つ野菜を育てるという提案をされた。
ついでに、その泥を少額で買取をすれば川への廃棄がなくなると助言された。
実際に試験的に実施をしてみると、新たな特産品が生まれた上に、川が綺麗になって大雨の時の氾濫もしなくなった。
どうやら売れると聞いて、川の底に溜まっていたものも掬い上げた者がいるらしい。
1度川に捨てた泥が再び掬えるというのは驚いたが、それほど溜まりやすいものならば川の水位が上がるのも納得だ。
結果を報告すると、ミスティカ嬢の顔が、いつもの自信がなさ気な表情から誇らしげな表情に変わり
「イルミネル様のお役に立てたなら光栄でございます」と笑顔を見せてくれた。
その笑顔は顔自体が特別整っているわけでもないのにとても美しく見えた。
今までは美しい女性を見ても整っているなと思うだけで、取り立てて心が乱されるようなことはなかったのに、その笑顔だけはもう一度見たいと思った。
それをきっかけにアルノールが視察と称して取り巻きたちとサボっている時には私とミスティカ嬢が最後に残るように調整して仕事を振るようになった。
アルノールが大量の仕事をミスティカ嬢に振るために、然程不自然さはなく仕事量を調整できていると思う。
その点だけはアルノールに感謝しないといけないね。
2人で話す内容は流行や噂話といったものではなく、お互いの領地の話。
それも財政や経営の話なので色気はないが、そういった話だとミスティカ嬢の笑顔が多く見られる。
もちろん領地のことを赤裸々に話すわけにはいかないから、必要なら内容をぼかしたり、嘘の情報を混ぜたりしているが、的確に問題の根本を見抜いて解決策を考えることができ、とても子爵家の者だとは思えない。
既に領地経営の経験もある程度はあるらしい。
この年齢で自領の手伝いをしていると言えるほど経験があるのは珍しく、優秀なことがよくわかる。
ただ身分差は気になるようで、始めはおどおどと話していたが、最近はあまり緊張せずに話してくれるようになって、喜ばしいと感じていたのに。
はぁ……。
彼女がよりにもよってアルノールの妻になってしまうだなんて認め難い。
持病はあるが、優秀さは私が勝っている。
最近では諦めがついてきた次期当主の立場に、再び未練が出る。
だが、私が意欲を持つと必ず持病が悪化する。
アルノールが立場を固めるのに必要な時期にもだ。
この持病は恐らく……。
だから今は爵位を継ぐ意思がないことを示しておかねばならない。
時期が来るまでは決して隙を見せてはいけないのだ。
私が弟を蹴落として君と一緒になりたいと言ったら、君は私を選んでくれるだろうか。
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