3話

ダンジョン47階層。

バウンティウルフという全ての攻撃にノックバック効果が発生するという至ってシンプルな攻撃をしてくる狼種。

単体なら避けるだけでいいが、さすが下層部。

最低でも5匹のバウンティウルフが群れを為して連携してくる。

当然、スピードは通常種より速く、攻撃力も桁違い。


そんな階層を二人の冒険者がバウンティウルフを切り伏せながら進んでいた。


「どう思いますか?」


「どうとは?」


「ニア受付嬢の臨時パーティの件です」


「至って真っ当かと」


「そうですか……」


使い手の珍しい刀を携えた女性と回復職のような見た目の男性。

今朝方、ダンジョンへ潜るためにギルドへ顔を出すと受付嬢に呼び止められ、ランク昇格の件と条件を聞かされた女性はなにか裏があるんじゃないかと疑っていた。


「なんでも、盲目の冒険者とタンクの祝福をもつ冒険者の二人組のようです」


「タンクの祝福は分かるわ。ナバルという名は有名だもの。それよりも問題は盲目の冒険者のほうよ」


立ち止まり、刀に手を添える。

目を瞑って一呼吸。

迷わずに抜刀し、神速の一振を放つ。


すると、目の前に現れたバウンティウルフの群れが横一線に切り裂かれた。

刀に付いた血を振り払い、鞘へ納める。


「情報がないわ」


「わたくしも知っていることは少ないですが、ファルという名らしいです」


男性も背後に回っていたバウンティウルフをメイスで撲滅していた。


「ファル……」


「お話を聞いてみるだけなら宜しいのでは?」


「そうね……。聞くだけなら問題ないわね」


「それでは、帰還したらニア嬢に話を通しておきます」


「お願いするわ」


バウンティウルフが消滅したことにより、魔石が落ちたので女性は拾い始めた。

すかさず男性も女性の手伝いを始めた。



◆◇◆◇◆◇◆



特に大きな問題もなく、日常を過ごしていたファル。

基本は宿でぼーっとしているかナバルを扱き使って本を読ませるかくらいしかやることがない。

一人だと外を歩くのが面倒であった。


そんな日々も悪くはないが、今日は珍しくナバルが呼び出してきた。


「どうしたの?」


「臨時パーティの件だよ。二人組の冒険者が面談をしたいって」


「ナバルだけじゃ駄目なの?」


「駄目だろ……。仮にも前衛を任せるかもしれないんだぞ?顔合わせくらいはしとけよ」


「顔合わせねぇ……。顔を見れないけど顔合わせなの?」


「屁理屈言ってんなよ……。ったく、行くぞ」


「はーい」


文句は言いつつも、外出用の服装に着替えているファル。

どんな服装をしているかわからないが、ナバルがなにも言わない当たりおかしくはないのだろう。


ちなみにファルは自分の荷物には魔力を少量付着させているのでどこに何があるかは直ぐに把握出来る。

見るよりも感じる影響か、無くしたということをしたことが無い。


そんなこんなで冒険者ギルドへ着いた。

ナバルに先導されながら、受付嬢の元へ向かう。


「よぉ、繁盛してんな」


「あっ!ナバルさん!忙しかったのでいいタイミングですっ!」


「俺らのことは気にしなくていいから仕事しろ」


「そんなー!私はこれでも人気受付嬢なんですよ?ほら、早く対応してもらいたくないですか?」


「ったく、調子乗りやがって。んで、パーティの件だよな?」


「はい、そうです。お話を聞きたいとのことでした」


準備していたであろう、パーティの詳細が書いてある用紙を渡してきた。

勿論、ファルはよめないので、見るのはナバルだ。


「なんて書いてあるの?」


「……おい、高貴なお嬢様どころじゃねぇだろ」


ナバルの呆れたような声が聞こえてきた。

ファルは頭にハテナの数を増やす。


「ナバルー?」


「ファルは黙っとけ。あとで説明してやる」


ひどい、傷ついた……。

いつものことだから特に気にしてないけど!


「これに関しては相手方が新しく出てきた詳細です。……さすがの私も表情が表に出たかもしれません」


「ちっ……。場所は?」


「二階の応接室を準備させていただきました」


「もう居るのか?」


「先程来られたので既にお待ちかと」


「ちっ、行くしかねぇじゃねぇかよ」


ナバルの魔力が乱れた。

結構動揺しているようだ。


「御無礼のないようにお願いいたしますね?……じゃないと私のクビが飛ぶかも知れません!」


「……ファル次第だな」


何故か僕に視線が集まっている気がする。

なにもやってないのに……。


「僕?」


「ファルさん!くれぐれも御無礼のないように!もし、何事もなく物事を終えられたら私が付きっきりで本を読んであげます!」


「ほんとっ?!嘘はつかないでね!?」


予想外の約束事にファルはテンションを上げる。

俄然と面談中は喋らないようにしようと心掛ける。


「じゃあ、ナバル二階に行こう!」


「待てって。情報を共有しねぇといけねぇ……」


「情報?」


ナバルに再び先導させ、人気の少ない場所まで移動した。


「相手は第五皇女だ」


「……第五皇女?!」


「あぁ、そしてもう一人は専属の執事のようだ」


「なるほど……だから、無礼のないようにってニア嬢の話だったわけね?」


「それだけか?」


「それだけだよ?たとえ無礼を働いたとてどうせ臨時なんでしょ?それに相手が強いか弱いかは問題じゃないよ。怪我しそうになったら僕が一瞬で始末するだけだから」


「はぁ……。相変わらずお前の自信と実力には呆れを通り越すぜ……。わかった、とりあえずは話してみて相手が前向きな姿勢だったらパーティを組む。それでいいな?」


「あと、お金ね!絶対割り勘だよ!それか、皇女様なら出してくれるかもしれないから要相談!」


「はぁ……こういう態度が無礼だって自覚してないのがファルのやべぇところなんだよなぁ……」


ナバルはことあとの面談に一波乱あるだろうと確信めいたものを感じた。

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盲目の冒険者〜真っ暗な世界は意外に楽しい〜 ペンネーム @noa3189

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