4話

通された応接間で専属執事のドーバがいれた紅茶を飲む。

ダンジョンに入る時以外は魔法鞄に常備している王家御用達の茶葉である。


「……来るわ」


扉の先に感じる気配。

一つはかなり濃い雰囲気。

一つはどこにでもいる子供のような雰囲気。


(一人はナバルさんだとわかるわ。そうするともう一人はファルという冒険者?……弱そうね)


冒険者は実力が高くなるほど雰囲気そのものが変化してくる。

それは強者になればなるほど理解出来るものであり、自分との強弱も理解しやすい。

ただあくまで目安であり、仮に決闘をした場合は技術力がものを言う。


凸凹コンビが来たことを感知していると、扉がノックされた。

執事が扉を開けに向かう。


「お待たせしました、サファリア第五皇女様」


「いえ、こちらも数分前に来たところよ。それにお互い冒険者。無礼講でいいわ」


「どうぞ、中へ。只今紅茶を準備致します」


「ありがとうございます。……じゃあ無礼講で行かせてもらうぜ?硬っ苦しいのは苦手なんだ」


ドーバに案内された二人は私の目の前のソファへ座る。

ナバルさんは私の知っている冒険者そのものだった。

そして、もう一人のファルという冒険者。


(規格外過ぎるわよ……)


部屋に充満していた魔力の質がガラッと変わった。

反発したり、吸収したりしていた外魔力がファルという冒険者のもとへ集まろうとしている。


魔力感知が苦手な私でも分かるほどこの部屋の魔力は全てファルに支配されている。


(……これがファルという冒険者?)


考え事をしているとナバルさんが苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「あー、なんだ。息苦しくねぇか?」


「……ご配慮痛み入ります。このくらいならまだ私は問題ありませんわ。ドーバ、無理はしてないかしら?」


「少々魔力が反発して吸われるような感じですが問題ありません……」


「……僕何もしてないけど?」


(無意識で魔力を操っていると言うの?)


これは評価を覆さないといけないと感じていた。

雰囲気だけでは測れない相当の技術力。

そして、対面して分かる実力の差。


恐らく奇襲を仕掛けても返り討ちにさせる未来しか思い浮かばない。

魔力を持つものがこの子に勝てるそんなビジョンが浮かばない。


「うーん、僕さ、目が見ないんだ。例えば、今目の前にあるはずのカップすらどこにあるのか分からないんだよ」


「し、失礼しました!」


後ろに控えていたドーバが頭を下げた。

配慮が足りなかったのは確かだが、ドーバがここまで焦るのも見たことはなかった。


「あ、ううん、気にしないで?実際はね?」


迷わず手を伸ばしてカップの取っ手を取る。

そのまま、口まで運び、一口。


「……あっつ!……びっくりしたぁ」


「お前……かっこ悪いぞ?」


「し、仕方ないじゃないか!……目に見えないからといってなんにもできない訳じゃないんだよ?まぁ、普段は魔力を感じないようにしてるから街中を歩く時とかは杖が必要になんだけどね?」


と、ソファの横に立てかけられている安っぽい杖を手に持つ。


「なぁ、このくだり必要か?」


「だって、僕が目が見えないからパーティを組まないって言われたら嫌じゃん?」


「あのな、正直言うが、ファルがこの部屋に入った瞬間から二人に拒否権は無くなってるんだわ」


「どうして?」


軽口を言うナバルさんだが、これが日常なのだろうか?

特に魔力の影響を受けずに平然としていられるのは異常そのもの。

魔力持つ者、この冒険者を前にしたらひれ伏すのが礼儀だと感じるほど。

そこに身分の差が関係ないほどに。


「お前が思っている以上に魔力っつうものは脅しに使われたりする。ましてや、ファル、お前魔力を少し漏らしたな?」


「漏らしたというか、二人を感知するために少しだけ外魔力を操作したけど?」


「「外魔力の操作?!」」


「それだよ、それ。俺はお前と一緒に居すぎて感覚麻痺してんだけどよ?外魔力っつうものは普通操作出来ねぇだろ?」


「そうなの?」


「そうですね……。そもそも、外魔力という概念自体ここ最近知れ渡ったものですし、多色混合した魔色を完全に操るのは不可能だと思ってました……」


魔色と外魔力。

魔色はその名の通り魔力の色のことを指す。

赤なら火属性、青なら水魔法、緑なら風魔法、黄色なら土魔法と、何種類か存在する魔色は色んな色が混ざり合い、それらを総称して外魔力と呼ばれている。

そして、外魔力は自分に適正している魔色のみを吸収し体内で内魔力に適応させていく。

内魔力から捻出したものが魔法として発射される訳だが……。


「魔法には詳しくなくってよ、この前調べたんだわ」


「え?なんで呼んでくれないの?!」


「いや、お前いると時間掛かるから呼ばなかったんだわ。んでな、外魔力そのものを操るってこと自体は近年でもできる冒険者が出てきているわけよ」


「リーヴァ婆さんとか出来るよね?あ、でも自分の得意な魔色しか操作出来ないし、細密なコントロールと集中力が必要って言ってたね?」


「はぁ……。リーヴァ様でも困難なことを簡単にできるお前が異常なの。わかる?」


この国一番の魔法使いにして、魔法学会の責任者でもあるリーヴァという魔法使い。

全属性を中級魔法まで扱え、得意の水魔法は特級魔法まで扱える。

そんなリーヴァ様が数十年前に唱えたのが外魔力の存在とコントロールについての論文。

その時は世界の魔法学会が注目したほど。

そして、数年前には魔色の混合色の魔法についての論文だ。


「あー、魔色の論文は綺麗に纏めてあったよね!特にサファリア第五皇女様も紫の魔色で雷属性の使い手だから珍しいよね!」


「えっと……。紫ですか?……雷属性とは?」


聞き覚えのない魔色と属性に困惑を隠せない。

ドーバも空いた口が塞がらなそうである。


「うん?リーヴァ婆さんの論文にもあったでしょ?魔色の混合色って?」


「いえ、確かに、論文は拝見しました……。しかし、混合色を見極めるのはリーヴァ様でもまだ困難なはずでは?」


一度、冷静になる為に紅茶を飲もうとカップを手に取る。

……空っぽでしたわ。


「ふふん!僕は盲目の冒険者だからね!魔力は手に取るようにわかるよ!なんなら、雷属性の使い方教えてあげようか?」


「ぜひ!これ以上強くなれるのなら!私にまだ伸び代があるなら……」


「あわわわ!ど、どうしよう!ナバル!」


「はぁ……。まぁ臨時パーティを組むってことでいいんじゃねーか?どうせ実力合わせはしないといけねぇんだしよ」


「さすがナバル!名案じゃん!あ、それで物は相談なんだけど……」


「なんでしょうか?」


どんな無理難題が言われるのでしょうか?

私個人で払える金額なんてたかが知れてますし……。

なんとか、お父様に相談して前借りも考慮しないと行けませんわね……。


「Aランク試験の受験料金貨五枚を払ってくれると助かります!」


「はぁ……」


「え、なんでナバルがため息つくの!え?無理難題過ぎた……?」


「いや、たまにお前の馬鹿さが堪らなく子供っぽさを感じてよ……。だってよ、姫さん」


「えっと……。それだけで宜しいのですか?」


「え?金貨五枚だよ?!大金じゃん!」


「「「はぁ……」」」


ファルという冒険者に今日で何度驚かされれば済むのでしょうか?

外魔力の操作の件、魔色の件、私の扱えなかった謎の魔力の件、そして……。


「私って王族だということを忘れられているのかしら?」


「いえ、恐らくそういうわけではなく、王族に金貨を要求することを無礼なのではないかと思っているのでは無いかと……」


「あんな魅力的な提案をされて断れるわけないじゃないですか。はぁ……、身構えた私がバカバカしいではないですか……」


ちらりと時計を見る。

まだ数十分しか経過していない。

それなのに、数刻は経っている気がするほど濃密な時間だった。

1度深呼吸をしてから、覚悟を決める。


「金貨五枚は私が払いましょう。その他にありますか?」


「え!払ってくれるの!やった!ナバル、今夜はご馳走でいいよね!」


「あ、あぁ……。ファルお前はもう黙っててくれ……」


「やった!お肉!ミルクも飲める!」


「はぁ……はずっ……」


「くすくす……」


思わず笑ってしまいましたわ。

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