2話
ダンジョンより帰還して街へ戻ってきた二人。
ファルはダンジョン内とうってかわり、杖を使っていた。
それもそのはず。
ダンジョン内は魔力によって道幅など全てを感知出来るが地上では無限に続く大地のせいで空間が把握しにくくなってしまう。
それにダンジョン外だと魔力の質がバラけ、魔力酔いになりやすいため基本的に魔力をシャットダウンしているのだ。
人で言えば、目を瞑っていらない情報を見ないようにしていると言ってもいい。
コツコツコツと杖で先の道を把握しながら歩く。
その後ろにナバルが付いて歩く。
「つか、報告するだけなら俺だけでもいいんだぞ?」
「だって、この依頼が終わったらようやく上位の冒険者の資格を得られるんだよ!そしたら、本が読み放題じゃないか!」
「読めねぇくせに何言ってやがる……」
「だからお金払ってるんだよ?ナバルに音読してもらうために!」
「俺はファルの執事じゃねぇんだよ!ったく、そもそも上位の冒険者になるのにも試験があんだよ」
「……試験?」
ファルがその場で立ち止まる。
急に止まったせいでナバルがぶつかりそうになるが、なんとか踏みとどまった。
「そうだ。BからAに上がるのには最低でも二つ条件がある」
そして、ナバルがファルの前を歩きながら説明する。
ただし、ファルの歩く速度に合わせながらだ。
「まず1つが5人パーティじゃなきゃダメだ」
「……あと3人」
「まぁ、こっちは臨時パーティでも問題ねぇ。もう一つが試験を受ける金だ」
「……お金!やばいじゃん!」
立ち止まって大声で叫んでしまった。
周りからの視線が集まるが、ファルは気づいてないようだ。
誤魔化すようナバルが再び歩き出す。
「そう、俺らは金がねぇ」
「今日の依頼料で足りないかな?」
「討伐してりゃ足りたかもな」
「どこの誰かも知らないパーティ!ふざけるなよ!」
再び視線が集まる。
しかし、いつものことかと、周りの人達も無視し始めた。
「というわけで、当面は金策とパーティメンバー探しだな」
「でも、僕らとパーティ組んでくれる人なんて居るのかな?」
「そこなんだよな〜」
方やオッサン、方や目が見えない。
足を引っ張られる要素しかない。
実際の実力は既にAランク冒険者と同等かそれ以上だが、見て得られる情報がマイナス過ぎるが故。
「とりあえず、報告だな」
「そうだね。……今日の依頼料でご馳走食べない?」
「金策しねぇとマズイって話したよなぁ?」
「ですよね……」
そんな漫才のような会話をしながら冒険者ギルドへ向かっていく。
街の中心部にある一際大きい建物。
遠くからも見えるようにデカデカと冒険者ギルドと看板が備え付けられている。
中に入ると酒の匂いが充満してくる。
既に日が落ちる間際ということもあり、冒険終わりの人達が飲み始めた頃合だった。
「よぉ、繁盛してんな」
「あら、ナバルさん達じゃないですか。報告ですか?」
若い受付嬢のもとへ向かったナバル。
もちろん、ナバルの趣味とかではなく、二人の担当受付嬢だからである。
「あぁ、ファルの魔力探知ではなにも見つからなかった。道中も代わりねぇな」
「下の階は調べてないから分からないけど、34階までは異常は無さそうだよ」
「そうですか……。どこかのパーティが討伐したか、気のせいかでしょうね」
「それより!Aランク冒険者の資格!」
「そうでしたね。……たしかに依頼の報告を受け付けました。こちらが今回の依頼料の金貨二枚です」
皆に分かりやすくいうなら
銅貨→大銅貨→銀貨→金貨。
銅貨10枚で大銅貨。
大銅貨10枚で銀貨。
銀貨100枚で金貨である。
今回は危険が伴う依頼だっただけに高めに設定されているのと、この依頼がファルに依頼された特別なものだったからである。
「やっぱり少しくらい贅沢しても……」
「ダメなものはダメだ。んで、Aランク昇格出来そうなのか?」
「実力、実績ともに十分ですので、あとは試験を受けて頂くだけですね」
「5人パーティ?お金は?試験内容は?」
「ファルさんはいつも通りですね……。まずは5人パーティですが、臨時でも構いませんが、出来るだけ長く組める方々だと幸いです。そして金額ですが金貨5枚ですね」
「高い!」
「合格したならば全額お返しします」
「ならよし!」
「ファル、少し黙っててくれ……」
ファルが一番不安だった金銭面が取り除かれたのでほくほく顔である。
肝心な試験内容はあまり気にしていないようだ。
「んで、試験内容はなんだよ?」
「50階層のボス討伐です」
「なんだ〜。それだけ?」
「ファルさんなら苦戦しないでしょうけど、当然条件があります」
「「条件?」」
「はい、全員無傷であること。そして、討伐証明出来るものを所持してくることです」
「俺とファルだけなら問題ねぇけど」
「5人パーティで無傷か……」
「当然、ファルさんだけが戦うのも禁止です」
「ですよね〜」
ファルとナバルは既に59階層まで攻略済みである。
60階層より下はAランク冒険者の資格が必要なためまだ挑戦できてないのだ。
「まぁ、妥当だな。50階層ボスなら深層にいくための最低条件だしな」
「分かって頂けて幸いです。まぁ、金貨5枚はパーティメンバーで相談してみて下さい」
「ったく、俺らと組んでくれる冒険者が居ないから困ってるのを知ってるくせによ」
くすくすと笑った受付嬢から報酬の金貨2枚を受け取り、バッグへしまった。
「そういえばですね。最近二人組の冒険者が入ってきまして。私が担当なんですが、話をしてみましょうか?」
「女か?」
ナバルは女がパーティに入るのを極端に嫌がる。
昔、男女のもつれでパーティが解散したことがあるらしい。
「男性と女性ですね。ただここだけの話になりますが……」
小声になったので身を寄せ合う三人。
ファルとナバルは耳を澄ませる。
「女性のほうが高貴な家の出らしいんですよ」
「問題事がありそうだな……」
「ただ、私が担当しているので今のところ問題は無さそうですが……どうします?」
「僕はどっちでもいいよ〜。ナバル次第でいいよ」
「とか言いつつ、早くAランクに上がりたいから断るということをさせねぇくせによ。ったく、一応声かけといてもらえます?」
「わかりました。では、近日中に面会の場を設けますね」
「お願いします」
「日程決まったら教えてくれ」
「はい!それでは、また依頼が受けたい時はお越しくださいませ!……あ、次の方こちらへどうぞ!」
担当の冒険者がいなくなれば、基本はフリーの冒険者の受付をすることが多い嬢。
特にファル達の担当であるニア嬢はギルドでも一二を争うほど人気な受付嬢で基本はフリーの冒険者が絶えない。
俺らが離れればこぞってむさ苦しい男どもがニア嬢目当てで並び始める。
「あんな面食いの女のどこがいいんだか……」
「ニア嬢ってやっぱりカワイイ系?」
「あー、ありゃ美人系だな。まぁファルにはパッと分からないだろうけどな」
「そうだね、僕には可愛いと美人も区別ないからね」
そう、ファルは盲目であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます