盲目の冒険者〜真っ暗な世界は意外に楽しい〜

ペンネーム

1話

この世界には祝福と呪いがある。

祝福は身に幸福を、呪いは害悪を。


しかし、祝福を受けながら呪いのような効果を得た者もいる。

ファルという冒険者。


視界が失われるかわりに魔力に関する能力が上澄みされるというシンプルな能力。

戦うために必要なのは筋力、速力、そして魔力と言われている。


武器を振るう筋力、間合い詰めや逃げの選択を幅広くする速力、そして魔法を駆使して戦う魔力。

これらのどれかを鍛えれば冒険者になるのは容易である。


しかし、ファルという冒険者は違う。

魔力こそ人より多く、扱いも上手い。

だが、それと同時に速力がないに等しい。


視界を失うというのは思っているほどに過酷だった。


しかし、これを祝福と言わしめるほどの実力を努力によってファルは得た。


「うーん……。何もいないな〜」


「はぁ?無駄足じゃねぇか……」


「外魔力の乱れ、痕跡、異常もない。うーん、誰かが先に解決したのかな?」


「まじか〜。まぁ解決されてるなら結果オーライだ。とりあえず、戻るか」


「うん、そうしよう」


二人組の冒険者。

一人は手ぶらでローブを羽織っているだけ。

もう一人は大盾を背負い、腰にショートソードを携えている。


二人組はダンジョン内の異変を調査しに来ていた。

他の冒険者からイレギュラーの可能性がある魔物が発生したから調査及び討伐してほしいとの依頼。

しかしながら、今居る階層が中層ということもあり、もしかしたら深層へ行く最中で他の冒険者パーティが倒した可能性も十分に考えられる。


淀みのないいつものダンジョンだと把握した冒険者は来た道を戻っていく。


「それにしたってよ、ファルの空間把握能力は異常だよな」


「そうだね、魔力の充満しているダンジョン内だから出来ることではあるけど」


「ワンフロアならどんだけ広くてもいいんだから魔力の可能性ってすげぇな」


「無限じゃないけどね……」


来た道を戻りながら、時より発生する魔力の淀みから生まれる魔物を討伐していく。

ダンジョン内の魔物は自然湧きである。

地中、空気中などに含まれる魔力が塊となり、魔物と化する。


ローブを着た冒険者、ファルはどんな小さい魔力でも感知して出来うる限りの危険を避ける。

倒さないといけない敵は倒し、避けて通れるなら遠回りしてでも避ける。

これはファルの魔力による空間把握能力が為せる技術なのである。


そしてもう一人の冒険者、ナバル。

もう少しで三十路になる強面のタンク。

見た目は細いが、脱げば凄い。

腕力だけが取り柄だが、タンクとしての能力は随一。


それもそのはず。


ナバルも祝福持ちである。


「盾の祝福が羨ましいよ」


「デメリットがねぇからな。まぁ、祝福持ちは少ねぇけど祝福がありゃあ上位の冒険者なんて朝飯前だからな」


盾を片手にもって器用に回す。

いや、正確にはどんなことをやっても落とすことはない。

手から盾が離れるときは意図的に離すか、耐えきれない攻撃が来たときくらいだ。


「デメリットのある祝福自体、そもそも存在しないはずなんだよな〜」


「といっても、与えられちゃあ、しゃねぇよ」


「そうだね、僕の盲目の祝福がいい例だね」


「視界が失われる代わりに魔力特化になるんだろ?」


「簡単に言えばそうだね」


もっと正確に言うなれば。


本来目を開いて見るという無意識でやっている事が成り代わっている。

景色を見る→魔力を感じるに変換させるように。

どこにあるか探す→魔力を感じて扱うといった様に。


何気無い行動が全て魔力に関するものに成り代わるのが盲目の祝福。


唯一無二のデメリットに近い祝福である。


お陰様というべきか、魔力の充満しているダンジョンの1階層なら地形の把握が一瞬である。

もちろん、トラップなども感知できるので斥候なども必要ない。


「盾の祝福を得たときはがっかりしたが、お前を見つけられてよかったわ」


「その説はお世話になりました」


元々ファルは孤児である。

一人行き場を無くしていたところに冒険者なりたてのナバルに拾われたのだ。


「さて、残り数階層。駆け抜けようか」


「おっけい、道案内頼んだぜ」


「うん。……とりあえず、目の前湧き」


「まじかよ!」


背中に抱えた盾を片手に構えた。

目の前に現れた魔物がこちらに気付く前に始末する。


何だかんだで中層からたったの一刻ほどでダンジョンから帰還した。

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