第7話:これより課金を開始する
じんわりとした気持ちになったが、感慨にふけるのは後回しだ。
それにしても俺は、レッドスライムの攻撃すら見えなかったんだが、あの時確かにユキは、「下がって」と、言った。
……てことは、ユキにはあの攻撃が見えていたのか。
ううむ、エルフ族男の娘の動体視力恐るべし。いや……俺もレベルが上がれば多少は見えるようになるかもしれん。
やはりレベ上げは大事だな。気が急くから面倒くさく感じるが。
まぁ、何れにせよガチャが最優先だ。
それと、経験値が二倍になる課金アイテムも購入しなきゃだな。売っていればだが。
然し、ログアウトしなくても本人認証が出来るし、エアパネルからブラウザやアプリの起動まで出来るから便利だ。
本人認証を済ませたら運営の発行する交換用コインを購入。
本人認証に関しては昔のような煩わしさは無い。
DNAスキャナーが組み込まれたウェアラブルデバイスが開発されてからは、DNA登録が義務付けされているので、一瞬で本人確認ができる。
これまでにも様々な生体認証はあったが、解像度の高いホログラムやAIが発達している現在では、本人が装着しているスキャナーによる『DNA認証システム』が、最も安全な認証方法となっている。
よし、無駄話はこれくらいにして、これより課金を開始する!
まぁ、課金のシステムは今でも同じだな。
リアルマネーを、ゲーム運営会社が発行する課金コインと交換し、そのコインでガチャを回したり課金アイテムと交換する仕組み。
このゲームを運営するエイツプレイスでは、その課金コインをスパークコインと名付けている。
取り敢えず、上限一杯までチャージしておくか。
『チャージは千円単位です。(注)一度チャージしたスパークコインは返金及び換金は出来ません』
まあ、アイテム課金ゲーとはこういう商売だからな。
それにしても千円単位とは……。
中学生や高校生、それに小学生、まぁ流石に高学年だと思うが、そういったプレイヤーも居る訳だから、せめて五百円単位にしないと拝金主義は拭えないだろ。
ネトゲには月額課金制とアイテム課金制というのがある。勿論、俺は無類のガチャ好きなので後者推しだ。
だが、ガチャ好きの俺でも、アイテム課金ゲーが過疎る原因の、ペイ・トゥ・ウィン要素が気になるので、すぐに別ウィンドウでブラウザを起動し、レビューを見てみることにした。
……ふむふむ。俺が現役だった頃は拝金主義のレッテルを貼られていた運営だが、現在の評価はかなり高いようだ。
どうやらこのゲームでは、あからさまなペイ・トゥ・ウィンにつながる課金ガチャの販売をしていないので、その点は安心した。
ふむ。良い運営になったものだな。
……よし! スパークコインは百万円分チャージした。
さあ、ガチャるぞー!
――いや、待て待て待て待て……。
都市間転送ポータルがあって、割りかし人が行き交っている公共の広場で、課金ガチャを開けるのは流石にヤバいだろ。
リアルを追求してるゲームなだけに、ガチャカプセルや景品が、そのままの形で出てくる可能性を否定出来ないからな。
危ない危ない、焦り過ぎだった。
俺は広場から南へと続く道幅のある街路を、周囲を見渡しながら進んでいった。
う~む、この街路も人が多いな。何だかこう、昔あった下町の商店街みたいだな。
すると、少し先に小さな路地を見つけたので入っていく。
少しだけ進んでみたが、残念なことに、こんな細い路地でもプレイヤーがそこそこ往来している。
う~む……冒険を始める町ではあるが、高レベルフィールドへのゲートも有るので、意外と人口密度は高いんだな。
と言う事は、人目に付かない場所は宿屋の個室くらいなものなんだが、今の俺って宿代さえ払えない貧乏プレイヤーだった。
これなら、今歩いてる道幅のない路地よりも、さっき通ってきた広い街路の方が、まだましだな。
俺は踵を返し、道幅のある街路まで戻った。
よし、ここならいいか。あとはカプセルや景品が、そのまんまの形で出てこない事を祈るだけだな。
周囲を見回し、邪魔にならないことを確認した俺は、指先を動かしてエアパネルを開いた。
スパークコインショップにアクセスしてみると、『ハッピークリスマス・ドリームカプセル』という季節限定のガチャ広告がトップページを飾っていた。
ふむ。ユキが欲しがっているミニスカサンタコスチュームは、どうやらこの季節限定ガチャの景品で間違いなさそうだ……。
これは、ガチャ景品一覧を開いて確認するまでもないな。
……取り敢えず、一個あたり五百円のドリームカプセル10個セットを50セット買ってみるか。要するに五百個、金額にして二十五万円分だ。
スパークコイン決済の確認画面を見ると、交換した課金アイテムは、外見上には反映されないアイテムボックスに送られるようだ。
うむむむ。これならこんな所まで歩かないで、広場でベンチに座りながらでもよかったな。
だがまぁ、先に確認しなかった俺が悪いし、ドリームカプセルは入手したから良しとしよう。
まぁ、これだけ買っておけばミニスカサンタが何セットかは出るだろう。
仮にダブったとしても俺が着ればいいし、残りはプレイヤーズマーケットで売れば、ゲームマネーも稼げて一石二鳥……いや、自分で言っておいてアレだが、やっぱ俺の感覚っておかしいな。
俺は『まとめてカプセルを10個開く』というコマンドを選択。いちいち1個ずつ開けていたのでは、時間が掛かって仕方ないからな。
どうせなら、まとめて100個開くコマンドがあればいいのだが、そんな馬鹿買いをする奴もそうそう居ないので、1個ずつか10個ずつの選択しかない。
頭の中で「ピコン」と、小さな音が鳴る。
『[システム]アイテムボックスに余裕がありません。スパークコインでアイテムボックス拡張パックを購入してください』
む? ドリームカプセルを買ったのはいいが、アイテムボックスに余裕が無いだと?
――どういう事だ?
すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ……
心を落ち着ける為、取り敢えず深呼吸してみた。
改めて確認して見ると、アイテムボックスは、初期段階では10枠だけとなっている。
装備品以外の同じアイテムなら、一つの枠に999個まではストック出来る。
ドリームカプセルも確かに500個、1枠にストックされている。
ところが、さっき手に入れたロッドと、たった今購入したドリームカプセルで2枠使っているので、残りが8枠になっている。
まぁ、数十種類ある景品がランダムで出る訳だから、開けるガチャの個数分の空き枠を確保した上で開けるのは当然だ……確かに8枠では一度に10個は無理。
だけど、初期段階でアイテムボックスが10枠だけって……なんてセコいんだよ。普通はもっと多いだろ。
……だがまぁ、アイテム課金ゲーとは、こういう商売なのだから今更言うまい。
再びスパークコインショップにアクセスし、アイテムボックス拡張という欄を開く。
どれどれ――なにぃ!?
アイテムボックス拡張は、リアルマネーに換算すると、たったの10枠で五万円だと⁉
……いやいやいや、いくらなんでも1枠あたり五千円って高過ぎないか?
しかも10枠が1パックで、パックでしか受け付けないっていうのは、拝金主義にも程がある。
現在はかなりの高評価を得ているらしいが、もしかしてインチキレビューか?
……いや待てよ?
そもそも、これ程高額な拡張パックを買う奴なんて居るんだろうか。
冒険をする上で100枠くらいは必要だと思うけど、それだけで50万円だからな……
うむむむ。これにはきっと何か裏がある筈だ。
腕を組んで考え込んでいた俺の背後から、誰かが声を掛けてきた。
「そこのお嬢さん。何かお困りですか?」
ん?
お嬢さんではなく、中身オッサンなのだが……まあいい。ブラウザ開いて調べる手間が省けるというものだ。
それに、俺のキャラは初期反映コスチュームのままなので、初心者丸出しだからな。
どこのネトゲにも居るものだ。初心者を見かけると、やたらと声を掛けたがる輩がな。
大抵は自キャラのレアな装備等を、初心者に見せたがる自慢厨なんだがな。
声の方へ振り向いて相手を確認してみると、かなりのイケメンが立っていたんだが……うん。やはりコイツもそれっぽいな。
声を掛けてきたイケメンキャラの装備を、真っ先に確認した俺はそう思った。
頭の先からつま先までの装備の名称の頭に、全て青い星マークが付いている。これは恐らくレアの証だと思うのだが、さっき俺が入手したロッドにも、色は違うけど星マークが付いていたのを思い出した。
見た目はロリっ娘でも中身はオッサンなのでイケメンに興味は無いが、レア度と星の色の関係を知りたかったので丁度良い。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。早速ですが質問があります」
ここは安定の敬語だ。
「何だい? なんでも言ってごらんよ」
なんという笑顔が似合うイケメンなんだ。だが、一瞬でフレンドリーな口調になってんじゃねぇよ。まぁでも今の俺は美少女な訳だし、折角だから質問しとこう。
「貴方のステータス画面から装備を見させて頂いたのですが、装備名の前にある青い星は、何か意味があるのでしょうか?」
よくぞ聞いてくれた、みたいな顔になりやがった。面白いなコイツ。多分中身は相当若いんだろうな。俺の見立てでは高校二年、いや、三年くらいかな。
「この星はレア度を表しているんだよ。因みにオレが今付けている装備一式は、クラスクエストのコンプリート報酬なんだ。勿論、このワールドで、これを持っているのは、まだ5人程しか居ないんだけどね」
誰が自慢しろと……いや、予想通りだ。
「そうなんですね。それで、色は……」
「あ、ごめん、話が逸れちゃったね。えっと、レア度が低い順に、白、黄、桃、緑、赤、青、一番高いのが紫で、全部で七色あるんだよ」
ふむ。桃の所をピンクと言わなかったので褒めてやろう。それでこそ我が国のイケメンだ。
それにしても、コイツは表情豊かだな。……いや、笑顔のユキが可愛すぎて、他のプレイヤーの顔を観察してなかったから、そう感じるだけかもしれないな。
まぁ、VRはここまで進化しているということだ。
それならば、俺も可愛らしい笑顔を返しておこう。
「教えて頂いて、有難うございます」
にっこり。
……お、コイツ少し照れやがった。
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