第10話 陽咲

「何聴いてるんですか?」


 職場の昼休み。ワイヤレスイヤホンでお弁当を食べながら、音楽を聴いてると、最近入った新人君が声をかけてきた。

 パソコンのデスクでお昼休憩のため、滅多に職員と話すことはなく、それぞれ好きな動画や音楽を聴いて過ごしていた。


「えっと……今流行りのK-POPかな」


 一つのイヤホンを外して、もぐもぐおにぎりを食べながら答えた。

 いつもはデスクはそれぞれだったが、たまたま外にランチに出かけた女子社員の席を借りて彼は隣に座る。


「ちょっと聴かせてくださいよ」


 陽咲ひさきよりも2歳年上の新人和哉かずやは2週間入って早くもガツガツだ。前職は派遣社員で同じIT業務をしていたらしい。


「全然、興味もないくせに?」

「興味を持とうと努力中」

「そういうことしなくていい」

「そんな、陽咲さん。彼氏ひとりもいないじゃないですか」

「な?! 何を根拠に!?」

「韓国アーティストを、追っかけしてるから」

「……」

「図星かな。大丈夫っすよ。別にナンパじゃありませんから」


 和哉は、借りたイヤホンをポイっと投げて、舌を見せる。

 わなわなといら立ちを隠せない。

 まさかそんな出来事から彼氏まで発展するとは思わなかった。何が起こるか分からないものだ。

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