第5話 智美

「智美さん、これをお願いします」


 入社して10年目。まだまだお局様の下で働いて、ぺこぺこ頭下げて、ゴマをすって生きてきた。

 そろそろ、独身でいる時間も長いと気づいた。もうこの際、寿退社でもしてみたいものだ。

 最近、新人の若い男子が入社した。先輩から仕事依頼を受け取って、さらに部下に仕事を振る係長の役割を担っていたのは智美ともみだった。


「さてと、えっと新人の木村爽汰きむらそうたくんだね。今、斎藤部長から預かった仕事あるので説明させてもらうね」

 上司でもあり、メンターでもあるため、割と慎重に心がけていた。

「よろしくです」

 はじめて会ったときからノリが軽い。

「そうだね。この書類を進めて、わからないことがあったらすぐ聞いて。何もかもはじめてだから、チェックや修正は、私に任せてほしいんだ。いい?」

「はい。了解しました」

 ペラペラとホチキスで止めた書類を読み込んだ爽汰は、手をあげた。

「ん、どうした?」

「はい。全部がわかりません」

「え、英語書いてないよ?」

「手取り足取り教えてもらえないとわかりません!」

 爽汰は、舌をペロッと出しておどけている。


「仕方ないなぁ」

 爽汰は、理解していたが、嘘をついた。まさか彼が、彼氏になるとは思わない。

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