第3話 美貴

 今の会社に入社して6ヶ月が経った。

 人間関係にも恵まれて、和気あいあいの職場に勤めていた。美貴みきは、医療事務として採用されて、集団面接の時からかなり目立つ存在だった。周りの人と比べて何を話してもキラキラと輝いていた。どんな質問にもしっかりと答えて自信満々だ。仕事に対しても集中していて、周りとの協調性にも長けている。そんな中、仕事がだんだんに慣れてくると、混雑期に突入した瞬間、やさしさ故に人に頼ることを恐れて、すべて自分でやってしまおうという気持ちに陥った。入ってまもないにも関わらず、先輩にもなってしまい、心身ともに崩れてしまった。出社前の面談でメンターである先輩恭介きょうすけが美貴の背中にとんと、手を乗せた。


「落ち着けって。俺らスタッフが他にもいるだろ。一人で抱えすぎだ」


 その言葉に、ずっと我慢していた思いが溢れて涙が出た。


「まだまだ新人だろう。できたふりをするなよ」

 頭をぽんぽんと撫でられた。


「気づいてやれなくてごめんな。俺も先輩として、落ち度があったかもしれないな」

「その通り!!」

「それは、はっきり言うんだなぁ?」

 美貴は、恭介に心を許すようになって交際にまで発展した。仕事以上に、心の拠り所になった。

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