第10話 優那

 とある休日。雲ひとつない青空の下で、優那ゆなは、近所のショッピングモールに買い物へ行こうとよそゆきの恰好で、歩いた。


 お気に入りのJ-POP音楽をワイヤレスイヤホンで聞いた。


 鼻歌を歌いながら、歩いていると、反対側の横断歩道で、黒のパンツスタイルにワッフルセーターにブラウンのジャケットを羽織った背の高い男性が、小型犬の散歩をしていた。横断歩道で信号が青になっているのを待っている。初めて会った人だ。


 青に変わって横断歩道ですれ違うと、香水の匂いが漂った。その瞬間に、胸をぐさっと何かがささった。一目ぼれだった。その男性のワンちゃんに、なりたいくらいだった。歩道をささっと行ってしまう。

 買い物も行きたいが、もう会うことはないかもしれないと思うと、足は無意識に男性の方に向いていた。


「あの、すいません!」

 急いで走って追いかけたら、息があがる。


「……??」

「そのワンちゃんってプードルですか?」

「これ? ミニチュアプードルだよ」

「可愛いですね」

「俺のペットじゃないんだけどね」

「……え?」

「彼女の。今日仕事で、散歩してたがってたから」

「……そうなんですか」


 優那は、犬の頭を撫でてぺこりと黙って、お辞儀して立ち去った。

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