第9話 愛莉

 太陽がまぶしく窓に光が差し込んできた。ふとんがあたたかくてまだ起きたくない。

ずっと目覚ましが鳴っている。起きなきゃいけないと思いながら、スマホを見ると少し悲しくなった。


『ごめん、今日、どうしても行けなくなったわ』


 彼氏の隆也たかやからのライン通知だった。スタンプもない。


『何かあった? 大丈夫?』


 愛莉あいりは、何ともないことをよそおって、返答する。


『昔、お世話になった恩師から頼まれごとあって、コート係してほしいって言われた』


『え、何のスポーツだっけ』


『剣道。中学・高校にやってたやつ』


『そっか。まさか、今日デートだから行けないなんて言えないだよね?』


『……そうだね。ちょっと、それは厳しいかな』


『そうだよね。私のことは気にしないで行っておいで。何時に終わるの?』


『午後3時頃だと思う』


『わかった。んじゃ、映画だったけど、夕食に食べに行こう。行きたいオムライスのお店があるんだ』


『うん、わかった。ごめんな。助かるよ。ありがとう』


 隆也は、そのメッセージを送って最後で既読がつかなくなった。

 本当は行かないでほしかったが、素直に言えなかった。

 愛莉は、隆也に嫌われたくなかった。

 もっと一緒にいたい気持ちがあったのを我慢した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る