第8話 紬葵

紬葵つむぎ!! ほーら、起きなさい!」


 大学生になっても実家から通う紬葵は、朝起きる時も母の声がないと起きられない。父の声ではなく、母じゃないと駄目な体になってるらしい。


「やだぁ、もう少し寝るの」


「バカ言ってるんじゃないわよ。電車に乗り遅れるから、おーきーなーさーい!!」


 母は、ベッドの上のふとんをはぎ取って、ベッドから紬葵の体をひきずりおろした。


「え、えー。落とさないでよぉ!!」

「そうでもしないと起きないでしょ。ほら、朝ごはん準備してるから早く下に下りて来なさいよ」


 母はそう言って、階段を下りて行った。


「まーた、遅刻か?」


 隣の家に住む幼馴染の年上会社員の朝陽あさひが窓を開けてこちらを見る。何故か自分の部屋の窓が開いていた。


「あ、またお母さん勝手に換気して!」


 ブツブツ文句言いながら、パシンと窓を閉めた。


「おい! 無視すんな」

「……いーっだ!」


 もう一度舌を、出してまた閉めた。


「おうおう、ずいぶん余裕ですなぁ」

「うるさい!! そっちこそ。寝坊でしょ」


「俺は、今日遅番なの。ゆっくり読書の時間だよ」


 朝陽は漫画本をぺらペらとめくって、ゲラゲラ笑う。本当は、この関わりが嬉しい紬葵だ。紬葵は舌をぺろっと出して窓を閉めた。

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