第5話 葵

 ポカポカと日差しが差し込む講義室。窓の外は雪がちらついている。

 暖房がついてることもあって、あたたかくて部屋の中は快適だ。

 冬の気温になりつつあるが、まだ雪は積もらない。

 今年は大学を卒業の年。今では、就職活動に忙しい人が多く、授業をまともに受ける人は少ない。インターンシップを受けて、そのまま就職になる人もいるらしい。もう、今やっている授業に意味があるのかないのか。周りと比べてはいけないだろうけど、集中できなかった。


「葵はまだ就活しないの?」

「まぁ、してないわけじゃないけど、合否待ちとか色々ね」

「何十社受けても、落ちるからなかなか決まらないこともあるよね。焦って妥協してもすぐ辞めてしまったら、元も子もないもんね」

「あれ、祥子もなの?」

「ううん。私は、実家の跡継ぎだから。大丈夫。安心だけど、自由はないよね」

「……働く場所があっていいじゃない」

「私がしたいことじゃないけどさ」

「そっか。理想と現実は違うね」

「いっそのこと、結婚しちゃえば? 武志くんと」

「え、それは無理。そこまで考えてない。交際歴長いけど」


 祥子はにやにやしながら頬杖ついて葵を見る。幼馴染がいていいなと思う。


「逆に、そっちが羨ましいよ」

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