第8話

第10章 - 松田優作の影


和歌山の研究所から脱出したミヤザキは、手に入れたデータを一刻も早く解析する必要があった。しかし、和歌山で得た情報は、それだけでは終わりを意味していなかった。データには坂東が追い求める「人体改造兵器」に関する詳しい設計図だけでなく、もうひとつ、特異な名前が記されていた。その名前は――「松田優作」。


この名前が何を意味するのか、ミヤザキには一瞬理解できなかった。しかし、名前に見覚えがあった。それは、かつて一度、彼の潜入捜査において接触したことのある、伝説的な存在――松田優作という人物が関与している可能性を示唆していた。


松田優作――この名前には、ただならぬ空気が漂っていた。かつて、世界的な影響力を持った企業の幹部であり、秘密裏に世界規模の軍事開発を進めていた男だった。その姿勢と方法は常に過激で、裏社会では「死神のような男」と恐れられていた。


ミヤザキは、その名前を忘れたことがない。


かつて松田優作が手掛けた兵器開発プロジェクトは、表に出ることなく完了したとされていたが、その実態は誰も知らなかった。松田の手のひらの上で動かされる人間たちが、やがて「新たな兵器」を実戦で投入する――そのような話は、噂に過ぎなかったが、確かにその一部は真実を含んでいるようだった。


ミヤザキはデータの解析を急ぐ中で、この松田優作の存在が再び浮上してきたことに気づいた。坂東の陰謀が世界規模で展開している中で、松田はその背後に潜む影のように、静かに動き始めているのだろうか。



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夜の大阪にて


ミヤザキは大阪に向かった。松田優作が関わった最後のプロジェクトのいくつかが、この街の一部の高層ビルに集約されているという情報を掴んでいた。彼は、松田が今も影響力を持つ企業の一つが、大阪の中心部にある「シティコア財団」であることを確認した。


「シティコア財団」とは、かつて松田が関わった民間企業であり、その名は多くの政府関係者と軍の中で知られていた。表向きは技術開発と研究を行う企業だが、内部では何かしらの危険な兵器開発が続けられているという噂が絶えなかった。


ミヤザキは、松田の居場所をつかむため、まずはシティコア財団の関係者と接触を試みることにした。彼は、自身が得意とする潜入術を駆使し、財団内に忍び込む準備を整えていた。



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シティコア財団のビル内


夜遅く、警備が緩くなる時間帯を見計らって、ミヤザキは財団のビルに忍び込んだ。冷たい空気が漂う中、彼は慎重に廊下を歩き、研究施設の奥深くに向かっていった。彼の目的は、松田優作に関する資料を手に入れること。ここには、松田がかつて関わったすべてのプロジェクトの記録が保管されているという。


ビルの最上階に到達したとき、ミヤザキは目の前の扉に鍵をかけられていることに気づいた。だが、ここで止まるわけにはいかない。彼は素早く工具を取り出し、鍵を解除した。扉を静かに開けると、広大な研究室が広がっていた。


机の上には、数多くのファイルと端末が並んでおり、その中に「松田優作」と書かれた資料があった。それを手に取った瞬間、ミヤザキは胸に冷たい感覚を覚えた。それは、確かに松田が関わった兵器開発に関する情報だった。だが、さらに驚くべきことに、その資料には次の一文が記されていた。


「松田優作は、坂東の背後にいる。」


その瞬間、ミヤザキの心臓が止まりそうになった。坂東の陰謀がここまで広がっていたのか。松田優作――この男が、坂東の動きにどれほど深く絡んでいるのかを知ることは、ミヤザキにとって重要な意味を持っていた。


だが、その時、背後で急に足音が聞こえた。何者かが近づいてきている。ミヤザキはすぐに資料を手に取ってポケットにしまい、音を立てずに研究室を抜け出した。



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シティコア財団の外で


ミヤザキは無事に財団を脱出し、夜の大阪の街に足を踏み入れた。手に入れた情報を再び解析する必要があった。松田優作の関与が、坂東の計画にどう影響しているのか、その核心に迫るために。


だが、ミヤザキは感じていた。この戦いは、彼一人では到底乗り越えられない。松田優作の存在が明らかになったことで、戦局はますます複雑さを増すばかりだった。


松田と坂東、そして彼らが目指す世界。ミヤザキは、再び自問する。


「本当に、この戦いを終わらせることができるのか?」


次回へ続く――


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