第5話

 第7章 - 新たなる脅威


 福岡の薄暗い街並みに、ミヤザキは静かに歩を進めていた。ビル群とネオンが入り混じる街角で、彼の目には冷徹な光が宿っていた。坂東の陰謀を追う中で、ついにその手掛かりが福岡にあることが明らかになったのだ。ウクライナの秘密兵器に関する情報が、福岡のとある企業に流れているとわかったのだ。


 その企業は、表向きはIT関連の企業だが、裏ではさまざまな秘密取引をしていると言われていた。富士通のような大手と密接に関わっているという噂もあり、ミヤザキはその企業の内部に潜入する必要があった。


 ミヤザキはまず、情報源から得た情報をもとに、企業のセキュリティを突破する方法を考えた。昼間は表向きに賑わっているオフィスビルだが、夜になると静まり返る。夜間の警備員の数も少ないため、この隙間をついて潜入するのが最良の方法だと判断した。



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 その夜、ミヤザキは黒いスーツを身にまとい、街中を歩いてビルに近づいた。目立たないように歩き、目的のビルの裏口へと向かう。そこには、企業の従業員が夜間の勤務で使用する小さなエントランスがある。彼はそのエントランスに目をつけ、近くの路地に隠れていた。


「…3分で入る」


 冷静に時刻を確認しながら、ミヤザキは自分の心拍数を落ち着かせる。潜入捜査では、どれほど計算していても、予想外の事態が起こるものだ。だが、それに対処するための準備も怠らなかった。


 裏口に隠れていたセキュリティカメラの角度を計算し、シャッターを開ける音を立てずに慎重に近づく。彼は手にした小型の電子機器を使い、ロックを解除する。2秒、3秒──瞬時に突破した。


 中に入ると、工場内のような無機質な空間が広がっていた。パソコンのモニターが並ぶ部屋、機材が無造作に置かれた部屋を横目で見ながら、ミヤザキは一つ一つの部屋をスキャンしていった。目指すのは、データが保管されているサーバールームだ。



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 サーバールームに到達するまでの道のりは順調だった。


 だが、問題はここからだ。セキュリティの最終防衛線とも言える部屋に辿り着いた時、ミヤザキは思わず息を呑んだ。部屋の中央には、数十台のコンピュータとサーバーが並べられ、ガラス越しにその内部が見える構造になっている。そして、その部屋には厳重な警備が配置されていた。二人の警備員が周囲を巡回しているのが見えた。


「どうする?」


 ミヤザキは一瞬、静止した。だが、考える時間はない。警備員は近くに来る度に通路の奥へと視線を送ってくる。彼はその動きに合わせ、壁の影に身をひそめながら進む。足音が静かに響く中、警備員の隙間をついて背後に回り込むことに成功した。


「あと少し」


 ミヤザキは一気に距離を詰め、持ち合わせの暗視ゴーグルを装着しながらサーバールームに向かう。室内に入ると、すぐにパソコンのモニターにアクセスを試みる。


「…これか」


 彼の目が輝く。画面には、ウクライナの秘密兵器の開発に関わる重要なデータが表示されていた。ミヤザキは素早くそのデータをダウンロードし、外部メディアにコピーを取る。


 だが、突然、背後から冷ややかな声が響いた。


「何者だ?」


 ミヤザキはその声に振り返らず、即座に反応した。彼の直感が働いた瞬間、足元から冷たい感触が伝わる。二人の警備員がすぐ後ろに立っているのだ。


 彼は瞬時に冷徹な判断を下し、警備員に向けて無言で手を振った。彼の動きが予想以上に速かったため、警備員は反応する暇もなく、あっという間に制圧された。だが、この作業には時間がかかりすぎた。バックアップのセキュリティが起動し、警報が鳴り響く。


「急がなければ」


 ミヤザキは素早くデータを持ち出し、窓を割ると、用意していたロープでビルの外に脱出した。その瞬間、警備員が室内に突入し、警報が響き渡る。だが、すでにミヤザキの姿はビルの外に消えていた。



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 ビルを抜け出した後、ミヤザキはすぐに車に乗り込み、福岡の静かな夜道を走り始めた。


 彼の手元にあるデータには、坂東の陰謀に関わるさらなる情報が詰まっていた。福岡での潜入捜査が成功したが、ミヤザキは次なる大きな危機を感じていた。ウクライナの秘密兵器の背後にいる「新たな支配者」の存在、それを完全に解明するためには、さらなる行動が必要だ。


「次のステップが、もうすぐだ」


ミヤザキはハンドルを握りしめ、心の中で次の計画を練りながら走り続けた。


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