第27話 ある雨の日
六月に入ると、朝から霧が出ていたり、一日中雨が降り続けたりする日が多くなった。期末試験まで残り一ヶ月ということで、彗の指導にはより熱が入るようになり、未琉からも実戦で使える魔法薬の作り方を教わるようになった。
雨の日は流石に体育館で行われるのかと思った体育の授業は、問答無用で運動場にて決行された。栗枝先生が「体育館が壊れたらお前らが弁償することになるんだぞ」と脅してきたため、従わざるをえなかった。とは言え驚いたことに制服のマントには撥水魔法がかけられているようで、マントさえ被っていれば全身びしょ濡れになることはなかった。マントを被っている部分だけでなく、全身、なのだ。靴の中すら濡れない。全くもって仕組みがわからない。皆に聞いても「そういうものだ」としか返ってこない。おまけにいつの間にか夏仕様の薄い素材になっていた。そういうものなんだな、と無理矢理自分を納得させるしかなかった。
事件が起きたのは、そんなある雨の日のことだった。
「……もう一度言ってみろよ、龍神彗」
「ええ、何度でも言って差し上げますよ、火野屋
横殴りに降る雨の中で行われた鬼ごっこ。
案の定腹を立てた
「誰が……誰が雑魚だよ!」
「ほら、またそうやって感情任せで爆発を起こそうとする。自分の馬鹿さ加減を自分で照明しているようなものではありませんか」
「ぐっ……」
口元を隠して嘲笑う彗。
「先生。同じことを繰り返していても、何の得にもなりません。授業内容を変更してはいかがでしょうか」
彗にそう問われ、傍観しているだけだった栗枝先生がやっと口を開いた。
「お前のそのやり方についてはどうかと思う部分もあるが……そうだな。授業内容の変更。検討する価値はある。確かに火野屋の攻撃はワンパターンすぎる」
「そんな……っ!」
先生からも指摘され、
「だったら、先生……何であたしを使おうと思ったんだよ。何であの時あたしの力が必要だなんて言ったんだよ! 先生はあたしの特性のこと知ってるんじゃねぇのかよ‼」
「ああ、知ってる。だからこいつらを鍛えるのに使えると思ったんだが……お前一人に任せているだけじゃ駄目だったみてぇだな」
「っ……!」
「あ!
先生の無慈悲な言葉が引き金となり、
「彗さんも先生も、言い過ぎじゃないですか」
「わたくしは事実を言ったまでです」
「私はあの後に、鬼を毎回変えることにしよう、と続けるつもりだったんだがな……」
批難するように私が言うと、彗はすました顔で平然と言い、先生は渋い表情を見せた。
「仕方ない。今日の体育はこれで終わりだ。一旦教室に戻るぞ」
先生の指示に従い、私達は大人しく教室に戻った。雨は激しさを増していた。
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