第19話 ツンデレ彗
彗の奇行に栗枝先生が謎のアドバイスをしてどうなることかと思ったが、何故かその一言で彗は素早く足をアマノさんからどかした。衆人環視の前でアマノさんに首輪をつけている自分の姿でも想像したのか、恥ずかしそうに顔を赤くさせている。アマノさんに「早くお座りください」と言うと自身もその場で正座し、アマノさんの頭を鷲掴んで机に打ちつける勢いで自分の頭と一緒に下げさせた。
「大変お見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした」
「なんだ。やめちまうのか、もったいねぇ。お前昔はもっと——」
「やめてください先生! 後生ですから!」
顔を真っ赤にしながら彗が懇願した。そんな彗を見て先生はけらけらと笑ったが、それ以上はからかおうとはしなかった。私としては先生の話の続きが気になったのだが、何かを察した彗に睨まれたので咄嗟に目を逸らした。
「くく。そうかそうか。彗にもこれだけ友人ができていたのか。だから毎日あのように調べものをのぉ」
「う、うるさいです! 他人の前でそんなこと話さないで……っていうか、別に友人ではなくただのクラスメイトです!」
「いたたっ……。あ、でも気持ちいい」
今度は羞恥心を隠すようにアマノさんをぽかぽかと叩きだした彗。しかしアマノさんは気にした様子もなく、むしろマッサージでも受けているような、普通に気持ちよさそうな顔をしている。なんなんだこの光景。痴話喧嘩か?
『調べものって、何を調べているの?』
知的好奇心からか、未琉が身を乗り出して質問をした。神社ともなれば、脈々と受け継がれる秘伝の魔法、なんてものもありそうだ。そう考えると、私も彗の調べものが気になってきた。
彗は答えたくないとでも言うように顔を背けたが、その行動は彗本人にとっては不正解であった。隣のアマノさんがよくぞ聞いてくれましたとばかりにぺらぺらと喋り始める。
「彗はな、魔法使いでないものがどうすれば魔法を使えるようになるのかを調べておるのだよ」
「あ、ちょっと……!」
「え、え、彗さんそれって、もしかして私のために?」
彗が物凄い勢いでアマノさんを抑え込み始めたがもう遅い。私の耳はアマノさんの言葉を聞き逃さなかった。
「おお、そうか。おぬしが魔法使いではない、一般家庭の生まれの子だな? その通り。彗はおぬしのために」
「だから! わたくしのためです! 試験に落ちないために!」
「くく。だからいつも言っておろう。それが巡り巡ってその子のためになると」
「~~~~~~~~~~‼」
彗はまたしてもアマノさんに猛攻を繰り返したが、アマノさんは笑顔で全て躱していく。そうやってからかわれるのが気に入らないのか、彗は更に顔を赤くさせた。そんな様子を見て、
「あいつ、意外とツンデレだな」
『うん。どう見てもツンデレ』
「だよね~。ふふ」
私と未琉も同意して頷く。
「し、試験に不合格になるなどという不名誉を避けたいだけです! そもそも、ロクな魔法も使えない一般人が同じクラスにいること自体耐えがたい苦痛なんですから、その上不合格になったら末代まで恨んでも恨み切れません! ……舞理さん!」
「は、はい!」
びしっと彗が私に指を差し向ける。
「明後日、この神社で儀式が行われます。本来は龍神家の者だけで行うのですが、今回ばかりは舞理さんにも参加していただきます」
「それって、もしかして何か魔法が使えるようになることと関係してたりするの?」
「ええ。このアマノオオタツカミの魔力をその身に宿すのですから」
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