第16話 杖の材料を手に入れた!
彗の助けを借りて地面に降りた私は、ほどなくしてやってきた栗枝先生から治癒魔法を受けた。一応口内も綺麗になったのだが、それでも気になったので水も出してもらってうがいをした。ついでに恥を忍んで吐しゃ物も魔法で消してもらった。
「うう……。彗さんも先生も、ありがとうございます」
身体は回復したがメンタル面はまだ疲弊したまま。神社に戻るかと問われたが、歩くのが面倒で藤の木にもたれるように座っている。
「何があったのかは知らんが、
先生が詰問するように彗を睨みつけた。対する彗は妖精を睨みながら答えた。
「わたくしは、ここまでやれとは言っていません」
〝くすくす。あなたも丸くなったものねぇ、彗〟
「……お前とこの妖精はどういう関係なんだ?」
先生が眉根を寄せながら問うと、今度は妖精がその返事をした。
〝わたしと彗は、ずぅっと昔からの知り合いなの。腐れ縁ってやつ? まあ、主にわたしが彗にちょっかいをかけているだけなんだけどね〟
「んで? 根音を宙吊りにした理由は?」
〝彗に頼まれたのよぉ。根音舞理って子を鍛えてほしい、ってね。その子は全然魔法が使えないから、このままだと試験が危ういって言って。くすくす。自分の心配なのか、その子の心配なのか、どっちなのかしらねぇ〟
「……え。彗さん、もしかして私のために?」
「わたくしのためです」
妖精の言葉に私は驚いたが、すぐに彗が釘を刺してきた。
「一年生の、それも一学期の試験に不合格になるなどという不名誉を避けたいだけです。そのためには舞理さんに魔法を使えるようになっていただかなければ困ります。ですので大変不本意ですが、彼女に舞理さんの力を引き出すよう協力をお願いしました。それが、たまたま、結果的には、あなたのためにもなる、というだけのことです」
「あー、うん。そういうことにしておくよ」
彗のぷりぷりと怒った姿が可愛らしい。意外とツンデレなのかも。
「何故そこで笑うんですか……。それで、どうでしたか」
〝思い通りに魔法が使えない時点でダメダメねぇ〟
「ぐっ……」
今日で一番深い傷ができた。
〝でも、人間や、わたしみたいに人間の言葉を理解する存在を相手に戦う時には、どんな攻撃が来るのか予測できないからそれは強みになるのかもね。それに……〟
妖精がこちらへ来て、私の膝の上にとまった。
〝あなたはこの
「えっ……」
「ちょっと、それは……!」
〝彗、あなたは黙ってて。わたしが、この子を気に入ったの。根音舞理、あなたにわたしの一部をあげる。せいぜい素敵な杖を作りなさいね。不細工な杖にしたら、今度は首を絞めてあげるんだからぁ〟
妖精が最後に恐ろしいことを言うと、蔓がずずっとこちらに伸びてきた。私は本当に首を絞められるのかと恐怖し咄嗟に身を庇ったが、蔓は私に触れることなく動きを止めた。
〝くすくす。不細工な杖にしたら、って言ったでしょ。ほら、受け取りなさい。これはあなたのものよ〟
目の前に伸びてきた蔓がひとりでに木から離れた。私はそれを恐る恐る手に取った。薄紫色の花を咲かせた藤の蔓。
……これをどう杖にしろと。
(籠を編むんじゃないんだけど)
〝あなたが使う魔法はちぐはぐなんだもの。あなたに合う杖の形も、あなたがいいと思うものとは違うのかもしれないわぁ〟
「違う……? それって、どういうこと? 妖精さんには私に合う杖の形がわかるの?」
意味深なことを言う妖精に私は問いかけたが、妖精は〝さあ、どうかしらぁ〟とはぐらかすだけで何も教えてはくれなかった。
〝わたしが何でもかんでも教えていたらつまらないじゃなぁい。教えるのはそこにいる先生の役割でしょ? あなたがこの蔓で作った杖で魔法を使う、その時に力を貸すのがわたしの役割。だから、今はこれ以上教えてあげなぁい。くすくす。杖の完成、楽しみにしてるわね〟
そう言って妖精は忽然と姿を消した。その場に残ったのは藤の花びらと微かな芳香だけだった。
「……何だったんだあの妖精?」
勝手に仕事を押し付けられたからか、少々不服そうな顔をして先生が呟いた。
「彼女はいつもこうなんです……。舞理さん、本当にその蔓で杖を作る気ですか?」
こちらはこちらで少々お怒り気味の彗。妖精は腐れ縁だとか言っていたが、彗にとっては天敵だったりするのだろうか。
「うん。〝これだ!〟って思ったのがこの藤の木だし……。まぁ、正直あの妖精が良い妖精だとは思い難いけど、でも力を貸してくれるなら私としてはありがたいもん。これで作ってみるよ」
「そうですか。では、それで作った杖を私には向けないでくださいね。私に何か危害を加えるようであれば、うちの神様に言って杖にも妖精にも天罰を下してもらいます」
「う、うん……向けないようにするね……」
やっぱり、天敵なのかもしれない。
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